体外受精

2022.10.03

少数の子宮内膜形質細胞は体外受精成績に無関係である(J Assist Reprod Genet. 2022)

はじめに

「慢性子宮内膜炎が女性の妊孕性に悪影響を及ぼす」とする説は数多くあります。 

①子宮内膜脱落膜変化(Wu, et al., 2017)、②子宮内膜遺伝子発現プロファイルの変化(insulin-like growth factor-binding protein 1, B-cell lymphoma 2 (BCL-2), Bcl-2-associated X, insulin-like growth factor 1) (Di Pietro, et al., 2013)、③B細胞、④NK細胞、⑤制御性T細胞(Treg)、⑥Tヘルパー細胞の割合;Th1/Th2、Th17など(Buzzaccarini, et al., 2020;Chen, et al., 2021; Kitazawa, et al., 2021)、⑦サイトカイン調節障害、⑧オートファジーの変化(Wang, et al., 2019)、⑨子宮内フローラの変化(Tanaka, et al., 2022)、⑩血管形成障害または子宮蠕動不全(Mount, et al., 2001)などです。これらの異なる問題は、全て互いに干渉し合い別々に評価・解決することができないと考えられます。 

細胞学的メカニズムはさておき、臨床的成績が改善できるのであれば一つ一つ潰していくべきだと考えます。その中の一つが慢性子宮内膜炎であることは間違いありません。 
ただし、どれくらい子宮内膜に形質細胞がある場合に慢性子宮内膜炎と診断するか、治療対象とするかは難しいところです。 
少数の子宮内膜形質細胞が胚移植成績に影響するかどうか調べた報告をご紹介いたします。 

ポイント

不妊治療を受けている女性の半数には子宮内膜に形質細胞が存在しますが、形質細胞の数が5個未満などの場合、抗生剤投与を行わなくても体外受精の妊娠予後に影響しないことがわかりました。今回の報告では5個以上の場合も有意差がありませんでしたが、症例数が少なかったため評価が難しいと結論づけています。 

引用文献

N S Herlihy, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. Feb;39(2):473-479. doi: 10.1007/s10815-021-02374-z.

論文内容

2018年8月から2019年12月の間に実施された前向き、多施設、盲検、非選択試験です。体外受精を実施した女性80名から子宮内膜組織を前向きに採取し、CD138免疫染色を用いて形質細胞を確認しました。20倍の倍率で観察し、無作為に10視野を選択して、3名の評価者によって診断しています。胚移植は着床前診断を実施し正倍数性胚の単一凍結融解胚移植を実施しています。子宮内膜組織の診断は胚移植後に行っているため、形質細胞の有無によって抗生剤投与などは実施していません。 

結果

49%の女性が1個/10HPFs以上、11%が5個/10HPFs以上、4%が10個/10HPFs以上の形質細胞を有していました。出生できたかどうかを形質細胞の有無で比較した場合、差を認めませんでした。10HPFsあたり1、5、10個のカットオフとして用いた場合、着床率、臨床妊娠率、流産率、出生率に差を認めることができませんでした。 

私見

体外受精不成功の患者様からすると、不妊原因が見付からないことは不安に感じますし、些細な原因でも見付かれば治療したいと思うことは当然の感情だと思います。 
ただし、少数の形質細胞があることで、それが不妊原因の主原因だとして他の原因を検索しようとしなくなることは問題です。 
私個人としては、「木を見て森を見ず」にならないように、総合的な判断を行って治療を進めていくべきだと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 反復着床不全(RIF)

# 慢性子宮内膜炎

# 免疫不妊・不育

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