はじめに
2000年から2021年11月にかけて、妊娠前、妊娠前・中・後の主要論文を検索し、2022年8月に米国産婦人科学会と米国周産期学会が出した推奨です。民族差や医療体制の違いもあるため国内ガイドラインとは完全一致するわけではありませんが、国内でも今後、当ガイドラインを踏まえた方向性に変わってくることも考えられます。不妊治療は高齢女性を対象とすることが多くありますので、患者様に現状を把握していただく意味でもご紹介させていただきます。
妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)は妊娠高血圧症候群のなかで妊娠20週以降に初めて高血圧とタンパク尿が発症するものと用語集では定義されています。
ポイント
35歳以上の妊婦における母体・胎児・新生児の有害事象リスクに対し、米国産婦人科学会は低用量アスピリン投与、超音波検査、出生前スクリーニング、妊娠39週での出産など、年齢を考慮した管理を推奨しています。
引用文献
Am J Obstet Gynecol. 2022 Jul 15;S0002-9378(22)00576-2. doi: 10.1016/j.ajog.2022.07.022. Committee on Clinical Consensus–Obstetrics; Society for Maternal-Fetal Medicine
論文内容
- 35歳以上での出産が予想される妊娠は、母体、胎児、新生児の有害な転帰の危険因子として事前に認識するよう説明する必要があり、これらは年齢や他の合併症などを加味し伝える必要があります。(GRADE 2C. 弱い推奨)
- 35歳以上の妊婦で、他に少なくとも1つの中等度の危険因子がある場合、妊娠高血圧腎症予防のために低用量アスピリンの連日投与を勧めています。(GRADE 1B. 強い推奨)
- 35歳以上の妊婦の多胎率の上昇を考慮すると、第1期の超音波検査を行うことを勧めています。(GRADE 2C. 弱い推奨)
- 年齢や染色体異常のリスクに関係なく、出生前スクリーニング検査(血清検査やNT肥厚などの超音波検査、cell free DNAスクリーニング)および診断検査(絨毛検査、羊水検査)の選択肢を検討し、すべての妊娠者に情報提供することを推奨し、相談の結果、検査にすすむかどうか判断することを勧めています。(GRADE 1A. 強い推奨)
- 35歳以上の妊婦には、胎児・新生児の染色体異数性リスクと潜在的なリスク上昇を考慮し、詳細な胎児超音波検査を行うことをお勧めします。(GRADE 2C. 弱い推奨)
- 40歳以上の妊婦では、週数より胎児が小さい場合、大きい場合の双方のリスク上昇があるため、妊娠28週前後での超音波検査をお勧めします。(GRADE 2C. 弱い推奨)
- 40歳以上で出産予定の妊婦では、死産のリスクが高まることから出生前胎児サーベイランスを行うことを提案します。(GRADE 2B. 弱い推奨)
- 40歳以上で出産予定の妊婦では、新生児死亡率が増加しているため、妊娠39週台での出産を進めることをお勧めします。(GRADE 1B. 強い推奨)
- 帝王切開の適応がなければ、女性年齢があがるだけで帝王切開の適応にはなりません。(GRADE 2B. 強い推奨)
私見
本ガイドラインは、35歳以上の妊娠管理における重要な指針を示していますが、不妊治療の現場においては妊娠成立前からのリスク評価と患者教育が極めて重要です。特に当院では40歳以上の患者様が多く、妊娠高血圧腎症や染色体異常のリスクについては治療開始時から十分な説明を行う必要があります。国内の医療体制や患者様の状況を考慮し、産科医との綿密な連携のもとで分娩時期を決定していくことが大切だと考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。