
はじめに
男性不妊は一定の頻度でみられます。近年、不妊と生活習慣の関係が注目されており、睡眠もその一つです。不妊と睡眠障害の関連を示す報告が増えてきています。今回は、睡眠障害が男性生殖機能に与える影響を検討したレビューをご紹介します。
ポイント
睡眠障害は精液の質、性欲、性機能、妊孕性に悪影響を及ぼし、酸化ストレスなどの共通の損傷因子が関与している可能性があります。
引用文献
Cavalhas-Almeida C, et al. Sleep Med Rev. 2025;81:102080. doi: 10.1016/j.smrv.2025.102080.
論文内容
本研究は睡眠障害、特に不眠症と男性生殖機能との関連を探索した文献レビューです。精子の質、ホルモンレベル、全体的な生殖機能に関する因子について、現在までの知見を検討しました。
結果
睡眠は正常な生殖機能にとって重要であり、ホルモン調節、精子形成、精子の質に関与しています。
交代勤務者では精液の質が低下し、特に精子数、濃度、形態に影響が認められました。性ホルモンレベルも変化し、レベルの変動やタイミングの異常が生じました。
睡眠の質と精子パラメータの間には逆U字型の関連が認められ、睡眠スコアが低い男性と高い男性の両方で、中程度のスコアの男性と比較して精液の質が低下していました。睡眠の質が低い場合(ピッツバーグ睡眠質指数による評価)は精子濃度に悪影響を与え、睡眠時間不足(6時間未満)は精子運動率に影響を及ぼしました。特発性不妊症と診断された男性119人と正常精子所見男性347人を対象とした研究では、特発性不妊症男性で睡眠の質が有意に低下していました。
短時間睡眠と長時間睡眠の両方、および遅い就寝時間が精子の質の低下、精液量の減少、総精子数の低下と関連していました。早朝型クロノタイプは精子濃度と正の相関を示しましたが、精子濃度と総精子数はベッドで過ごす時間と負の相関を示しました。
慢性不眠症は、テストステロンレベル、精液の質、性的満足度に影響を与えることで妊孕性に悪影響を及ぼします。原発性不眠症の男性では、グルタチオンペルオキシダーゼ活性の低下と血中脂質過酸化レベルの上昇が認められ、慢性睡眠不足による酸化ストレスの増加が妊孕性への悪影響の原因である可能性が示唆されています。時計遺伝子(BMAL1、CLOCK、CRY1、PER1、PER2)発現レベルは、健康な妊孕能がある男性と比較して精液所見に異常ある男性で異なっていました。メラトニン補給は男性配偶子に対する保護効果を示し、精子のアポトーシス、DNA断片化、脂質過酸化を減少させ、膜完全性を向上させました。
私見
交代勤務や夜型生活が精子の質に悪影響を与えるという報告は、生活指導の重要性を示しています(Liu K, et al. Hum Reprod, 2020、Jensen TK, et al. Am J Epidemiol, 2013)。睡眠時間が短すぎても長すぎても精液の質が低下することが示されました。これは適切な睡眠時間(7-9時間)の重要性を支持する知見です。酸化ストレスが睡眠障害と不妊の共通メカニズムである可能性は注目すべき点で、メラトニン補給などの抗酸化療法の可能性を示唆しています(Bejarano I, et al. J Pineal Res, 2014)。
男女共通でいえることは下記のことかと考えています。
- 短すぎる/長すぎる睡眠時間の適正化:7〜8時間目安で睡眠の質より調整
- 睡眠の質/障害の評価:睡眠状態や入眠困難などを把握
- 規則正しい睡眠スケジュールの維持:夜間の人工光曝露、不規則な食事時間、シフトワークなどによる概日リズム(サーカディアンリズム)の乱れを最小化
下記でも取り上げています。
睡眠破綻とtime to pregnancy(Fertil Steril. 2025)
https://wfc-mom.jp/blog/post_1587/
睡眠の質と卵巣予備能との関連性(Fertil Steril. 2025)
https://wfc-mom.jp/blog/20250321/
睡眠特徴はART治療成績と関連する?(Hum Reprod. 2022)
https://wfc-mom.jp/blog/post_597/
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。