プレコンセプションケア

2021.12.23

女性の睡眠時間と妊娠のしやすさ(論文紹介)

はじめに

Pregnancy Study Online (PRESTO)という米国またはカナダ在住の21~45歳の女性、男性21歳以上を対象としたウェブベースの妊娠前コホート研究があり、男性の場合と同様に睡眠時間と妊娠のしやすさについて検討されています。
この研究では、妊娠を希望する21~45歳の北米女性を対象とし、初回問診時に自己申告による前月の24時間あたりの平均睡眠時間、過去2週間以内の睡眠障害の頻度(Major Depression Inventoryで測定)、およびシフト勤務のパターンを記入してもらい、妊娠の有無については8週間ごとに実施した質問紙調査により最長12ヵ月間または妊娠するまで確認しました。睡眠時間・障害と女性の妊娠しやすさを検討した論文をご紹介いたします。

ポイント

女性の睡眠障害は妊娠しやすさの低下と関連し、睡眠時間の短さも妊娠しやすさに影響する可能性が示唆されました。睡眠の質の改善は妊娠希望女性への重要なプレコンセプションケアとなり得ます。

引用文献

Sydney Kaye Willis, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.037

論文内容

2013年6月から2018年9月の間に、不妊期間6か月以下で妊娠を希望している女性6,873名を対象としました。Proportional probabilities regression modelを用いて、潜在的交絡因子を調整した上で、妊娠可能性と95%信頼区間(CI)を推定しました。
1日8時間の睡眠と比較して、6時間未満、6時間、7時間、9時間以上の睡眠の妊娠可能性は、それぞれ0.89(95%CI、0.75-1.06)、0.95(95%CI、0.86-1.04)、0.99(95%CI、0.92-1.06)、0.96(95%CI、0.84-1.10)でした。睡眠障害がない女性と比較して、睡眠障害が50%未満の場合の妊娠可能性は0.93(95%CI、0.88-1.00)、睡眠障害が50%以上の場合の妊娠可能性は0.87(95%CI、0.79-0.95)でした。この結果は、抑うつ症状と自覚しているストレスレベルが高い女性にやや強い傾向にありました。交代勤務と妊娠可能性の間には関連はありませんでした。

結論

夜間の睡眠障害は、妊娠しやすさの低下と軽度に関連し、睡眠時間の短さと妊娠しやすさには僅かに関連する可能性も示唆されました。

所見

女性は男性よりも睡眠障害が多く、睡眠の質が低い傾向にあります。
これは、睡眠障害が性ホルモンの変動に関係するためとされており、PCOS女性を対象とした横断研究では、睡眠時間の短さ(1日6時間未満)と月経周期の異常との関連が報告されています。
男性は睡眠時間が妊娠のしやすさに影響を与え、女性では睡眠障害が妊娠のしやすさに影響を与えていそうです。女性の睡眠障害が妊娠しやすさに影響を与えているのは、原因としてある環境要因を含めた生活ストレスが性ホルモンに関係するためなのかもしれません。
今後も睡眠と妊娠の関係は注視していきたいと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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