プレコンセプションケア

2025.12.01

睡眠と生殖機能:男女妊孕能への影響(Journal of Circadian Rhythms. 2020)

はじめに

現代社会では睡眠不足が一般的な健康問題となっており、約30%の成人が1日6時間未満の睡眠しか取っていません。睡眠は生殖ホルモンの合成・分泌・代謝に重要な役割を果たし、睡眠不足は男女問わず不妊の原因の一つとして報告されています。今回、睡眠と生殖機能の関係を包括的に検討したレビューをご紹介いたします。

ポイント

睡眠不足は男女の生殖ホルモン分泌を阻害し、女性では排卵障害や着床不全、男性ではテストステロン低下による精子運動性の悪化を引き起こして不妊につながる可能性があります。

引用文献

Lateef OM, et al. Journal of Circadian Rhythms. 2020;18(1):1-11. doi: 10.5334/jcr.190

論文内容

睡眠不足が男女の生殖機能に与える影響を動物実験や臨床研究のエビデンスから包括的に検討することを目的としたレビューです。
男性への影響では、動物実験において7日間の睡眠不足により精子運動性の有意な低下が認められ、同時にコルチコステロン濃度の増加とテストステロン濃度の低下が観察されました。睡眠不足が男性不妊に至る機序として、ストレス刺激によるHPA軸の活性化がコルチコステロイド産生を増加させ、これがHPG軸を抑制してLH分泌を低下させることが明らかにされています。さらに、睡眠不足はセロトニン産生を増加させ、これがテストステロン産生を直接的に抑制し、Leydig細胞のアポトーシスを誘導することで最終的に男性不妊に至るという包括的な病態機序が示されています。
年齢別の検討では、健康な若年男性10名を対象とした研究で、5時間睡眠を8日間継続すると日中テストステロン値が10-15%有意に低下しました。中高年男性(45-74歳、67名)では、睡眠の質の低下とテストステロン濃度の低下に有意な相関が認められ、深睡眠の減少が特に影響することが明らかになりました。

女性への影響では、思春期には睡眠がゴナドトロピンの拍動性分泌を刺激しますが、生殖年齢女性では卵胞期初期にLHパルス頻度を低下させます。
睡眠不足は急性期にTSHレベルを有意に増加させ、TSHの上昇はプロラクチン分泌を刺激します。
シフトワーカーを対象とした2014年メタアナリシスでは、月経周期異常ORが1.22(95%CI: 1.15-1.29)、不妊ORが1.8(95%CI: 1.01-3.20)と有意に増加していました。夜間シフト限定の解析では、早期流産リスクが有意に増加(OR: 1.41、95%CI: 1.22-1.63)していました。
女性シフトワーカーにおける生殖機能障害の病態機序として、シフトワークに伴う睡眠不足と概日リズムの乱れが複合的に作用することが示されています。具体的には、メラトニン分泌の抑制、酸化ストレスの増加、ゴナドトロピンと性ステロイドホルモン分泌の変調が生じ、ホルモンバランスの異常が引き起こされ、最終的に排卵障害、早期流産、不妊につながるとされています。さらに、耐糖能異常やインスリン抵抗性も併発することが知られています。
メラトニンは卵胞液中で卵子を酸化ストレスから保護する重要な役割を果たし、睡眠不足によるメラトニン分泌低下は卵子の質の低下につながります。メラトニン補充により体外受精の採卵数、卵子の質と成熟度、受精率、受精胚の質が改善することが報告されています。

私見

不妊症患者の生活指導において睡眠の重要性を伝える必要があります。特に現代社会において睡眠時間の短縮や質の低下が問題となっており、適切な睡眠衛生指導は生殖補助医療の成功率向上に寄与する可能性があります。

【ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)について】

Y Doi, et al. Psychiatry Res. 2000 Dec 27;97(2-3):165-72. doi: 10.1016/s0165-1781(00)00232-8.
睡眠の質を客観的に評価するツールとして、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index: PSQI)があります。PSQIは過去1か月間の睡眠の質を包括的に評価する自己記入式質問票で、7つの構成要素から成り立っています。各構成要素は0-3点で評価され、総合得点は0-21点となります。5点以下が良好な睡眠、6点以上で睡眠の質の低下を示唆します。不妊診療において患者の睡眠状態を評価し、適切な睡眠指導を行う際の有用なスクリーニングツールとして活用できます。

実際の質問票は以下のようなものです:

【ピッツバーグ睡眠質問票】

過去1ヶ月間における、あなたの通常の睡眠の習慣についておたずねします。過去1ヶ月間について大部分の日の昼と夜を考えて、以下の質問項目にできる限り正確にお答えください。

問1 過去1ヶ月間において、通常何時ごろ寝床につきましたか?
 時  分

問2 過去1ヶ月間において、寝床についてから眠るまでにどれくらい時間を要しましたか?
 分

問3 過去1ヶ月間において、通常何時ごろ起床しましたか?
 時  分

問4 過去1ヶ月間において、実際の睡眠時間は何時間くらいでしたか?これは、あなたが寝床の中にいた時間とは異なる場合があるかもしれません。
 時間  分

問5 過去1ヶ月間において、どれくらいの頻度で、以下の理由のために睡眠が困難でしたか?最もあてはまるものを1つ選んでください。

(a) 寝床についてから30分以内に眠ることができなかったから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(b) 夜間または早朝に目が覚めたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(c) トイレに起きたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(d) 息苦しかったから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(e) 咳きが出たり大きないびきをかいたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(f) ひどく寒く感じたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(g) ひどく暑く感じたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(h) 悪い夢をみたから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(i) 痛みがあったから。
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

(j) 上記以外の理由があれば次の空欄に記載してください。

問6 過去1ヶ月間において、ご自分の睡眠の質を全体として、どのように評価しますか?
□非常によい □かなりよい □かなり悪い □非常に悪い

問7 過去1ヶ月間において、どのくらいの頻度で、眠るために薬を服用しましたか(医師から処方された薬あるいは薬屋で買った薬)?
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

問8 過去1ヶ月間において、どれくらいの頻度で、車の運転や食事中、その他の社会活動中に、眠くて起きていられなくなりましたか?
□なし □1週間に1回未満 □1週間に1-2回 □1週間に3回以上

問9 過去1ヶ月間において、物事をやり遂げるために必要な意欲を持続するのに、どのくらい問題がありましたか?
□全く問題なし □ほんのわずかだけ問題があった □いくらか問題があった □非常に大きな問題があった

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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