不育症

2021.06.26

不育症・着床不全分野での免疫学的検査について

はじめに

生殖医療に関わる多くの名が「不妊症」と「不育症」は別個な病態であるという共通認識をもっています。しかし、不妊症の中の一部である「反復着床不全」と「不育症」はどうでしょうか。不育症の提言2025では別個な病態であるため、反復着床不全に対して不育症に準じた検査は行うのは妥当ではないとされています。私も、大部分は上記に賛同していますが、やはり病気の名前や診断基準はヒトが説明しやすいように決めたものであり、すべての事象は連続性があるというのが持論ですので、一部オーバーラップする部分があってもおかしくないのではと思っています。
そうはいっても、患者様には、まずは一般論で検査・治療方針を説明するのが医療者の役割ですので、反復着床不全と不育症における免疫検査・療法についてはどうかを不育症の提言2025、生殖医療ガイドラインを参考に提示させていただこうと思います。 

ポイント

不育症と反復着床不全では一部はオーバーラップしますが異なる病態です。免疫学的検査・治療も症例に応じ個別対応していくことが重要です。 

まとめ

不育症の免疫検査・治療について

不育症の提言2025より、検査には推奨検査・選択的検査・研究的検査・非推奨検査があり、免疫学的検査は研究的検査・非推奨検査に分類されています。不育症に免疫因子が関係しているというのは万名一致の理解なのですが、検査法の標準化されていない点、カットオフ値が定まっていない点が問題となっています。 

研究的検査 
末梢血:NK活性、NK細胞率、制御性T細胞率 
子宮内膜:CD56brightNK細胞率、KIR陽性率、制御性T細胞 

コホート研究では、非妊娠時の末梢血NK細胞活性が高い不育症女性は、その後の妊娠が染色体正常流産となるリスクが高かったとしていますが、ESHREのガイドラインを含めて現時点ではこれらの検査の有用性を示す十分な根拠はないとしています。末梢血と子宮内の免疫細胞バランスは同じではないというのが共通の理解となっています。子宮のNK細胞や制御性T細胞の測定は、理論的には良いアプローチである可能性が示唆されており、今後の臨床検査として応用される可能性が期待されます。 
また、反復着床不全で測定されているTh1/Th2比は不育症の提言2025では質が高い論文が少ないという理由で非推奨検査に位置付けられています。 

反復着床不全の免疫検査・治療について

生殖医療ガイドライン2025より、検査・治療とも推奨度Cとしながらも治療をストップしなくてもよい方向の記載となっております。 

CQ43 反復着床不全にTh1/Th2比測定は推奨されるか? 

  1. 末梢血を用いたTh1/Th2比測定はRIFの診断に有効である可能性があり、検査を実施する場合には、検査特性や結果の解釈について十分相談を行う。(C)
  2. 子宮内膜を用いたTh1/Th2比測定はRIFの診断に有効である可能性がある。(C) 

    CQ45 反復着床不全に薬物療法は有効か? 

    1. RIFに対する低用量アスピリン・グルココルチコイドによる治療は有効である可能性がある。(C) 
    2. RIFに対する治療として、ヘパリン・タクロリムス・ヒドロキシクロロキン・免疫グロブリン・脂肪乳剤・TNF阻害薬・ビタミンDなどの使用が考慮される。(C)
    3. RIFに対する治療として、CEに対する抗菌薬投与が考慮される。(C) 

        私見

        不育症の提言2025や生殖医療ガイドライン2025が整備されてきたことから、不育症・着床不全分野での免疫学的検査・治療を患者様に提案しながら患者様個人ベースに落とし込み提供していきたいと思います。 

        文責:川井清考(WFC group CEO)

        お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

        # 反復着床不全(RIF)

        # 免疫不妊・不育

        WFC group CEO

        川井 清考

        WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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