はじめに
世界的に凍結融解胚移植時の内膜調整には排卵周期が見直されるようになってきました。排卵周期の場合、子宮内膜厚は患者の卵胞発育に伴うエストロゲンの増加に委ねられるため、どのように成績に影響を与えるのでしょうか。LHサージ当日の子宮内膜の厚さが、凍結融解胚移植の妊娠転帰に影響を与えるかどうか調べた論文をご紹介します。
ポイント
LHサージ当日の子宮内膜厚は、胚移植当日の子宮内膜厚と比較して、排卵周期凍結胚盤胞移植成績のより良い予測因子となります。LHサージ当日の子宮内膜厚が9.1mm未満の場合は、胚移植当日の子宮内膜厚が十分に厚くても妊娠成績が低下しました。
引用文献
Onogi Sら.Hum Reprod Open. 2020. DOI: 10.1093/hropen/hoaa060.
論文内容
LHサージ当日の子宮内膜の厚さは、修正自然周期における単一胚盤胞移植後の妊娠成績を予測できるかを調査することを目的としました。
胚移植当日の子宮内膜厚と妊娠成績率との関係については、論文が多々ありますが、結論は出ていません。最近、排卵周期での凍結融解胚移植が増えていますが、その上でのLHサージ日の子宮内膜厚が成績にどのように関与するかはわかっていません。
2018年11月から2019年10月に実施された修正自然周期における凍結単一胚盤胞移植808件(女性年齢:24~47歳)を、このレトロスペクティブコホート研究で分析しました。LHサージ日の子宮内膜厚と凍結単一胚盤胞移植の臨床的妊娠率および継続妊娠率との関連を統計的に評価しました。
結果
901名の女性のうち、FSH異常もしくは過短・過長月経の93名は解析から除外しました。患者は、LHサージ当日の子宮内膜厚の四分位数によって、以下のように分類されました:子宮内膜厚<8.1mm、8.1mm≦子宮内膜厚<9.1mm、9.1mm≦子宮内膜厚<10.6mm、子宮内膜厚≧10.6mm。
LHサージ当日の子宮内膜厚の低下は、出生率(P=0.0016)および化学的妊娠率(P=0.0011)の低下と関連していました。単一胚盤胞凍結融解胚移植当日の子宮内膜厚の低下は、出生率の低下(P=0.0095)と関連していましたが、化学的妊娠率(P=0.1640)とは関連していませんでした。
また、多変量ロジスティック回帰分析の結果、LHサージ当日の子宮内膜厚と継続妊娠との間には有意な相関関係が認められましたが、単一胚盤胞凍結融解胚移植当日の子宮内膜厚と継続妊娠との間には関係は認められませんでした(調整済みオッズ比0.952、95%CI、0.850-1.066、P=0.3981)。LHサージ当日の子宮内膜厚の低下は、女性の年齢が高いこと(P=0.0003)および卵胞期/増殖期が短いこと(P<0.0001)と有意に関連していました。
私見
Hサージ当日の子宮内膜厚の低下は、女性の年齢が高いことや増殖期が短いことと関連しており、低い出生率や化学的妊娠率の低下と関連している可能性があります。
LHサージ当日の子宮内膜厚は、増殖期に分泌されるエストロゲンの影響を強く受けます。一方、移植当日の子宮内膜厚は、分泌期に分泌されるエストロゲンとプロゲステロンの両方に影響され、分化の度合いを反映しています。このことから増殖期の内膜厚(LHサージ当日)と分泌期の内膜厚(移植当日)で同じように評価するのに違和感を覚えるのは尤もな考え方です。
今回の結果は、①単一胚盤胞凍結融解胚移植当日の子宮内膜厚と比較して、LHサージ当日の子宮内膜厚は、修正自然周期における凍結胚盤胞移植後の妊娠成績のより良い予測因子であること、②LHサージ当日の子宮内膜厚が9.1mm未満の場合は、単一胚盤胞凍結融解胚移植当日の子宮内膜厚が十分に厚くても(10mm以上)、妊娠成績が有意に低下すること、③LHサージ当日の子宮内膜厚の低下は、女性の年齢と負の相関があり、増殖期の長さと正の相関があることがわかりました。
増殖期(月経から排卵までの時間)が短いと、エストラジオール、LH、FSHの累積暴露量が不十分になるため、これが内膜厚にも影響を与えていることが想像されます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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