はじめに
卵巣刺激しても回収卵子数を期待できない方が、3回まで体外受精治療を続けた場合にどの程度分娩まで到達するのでしょうか。POSEIDONで層別化した報告を紹介します。
ポイント
卵巣刺激低反応群を4つに層別化した結果、卵巣予備能が十分な若年女性(POSEIDON1群)の保守的累積出生率は66.06%と最も良好で、卵巣予備能が低い高年齢女性(POSEIDON4群)は9.68%と不良でした。体外受精を3周期繰り返すことで、POSEIDON1-3群では良好な結果が得られました。
引用文献
Yuan Li, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2019. DOI: 10.3389/fendo.2019.00642.
論文内容
2014年1月から2017年6月まで中国で体外受精治療を受けた女性62,749名(97,388周期)のうち基準を満たした19,781名(31.52%:26,697周期)を対象とした後方視的研究です。
刺激法はロング法またはアンタゴニスト法(112.5~300IU:FSH/HMG)で、トリガー35~36時間後に採卵を実施し、新鮮受精胚移植を行う場合は採卵後3~5日目に3個以下の受精胚を移植しました。凍結融解胚移植周期でも同様に3個以下の受精胚移植としました。保守的出生率とは治療を中止した段階以降の出生率を0として計算した出生率、最適累積出生率は治療を中止した女性も継続していた場合、残りの女性と同等に出生に至ったと仮定した出生率です。
結果
POSEIDON群1、2、3、および4において、IVF/ICSIの連続3周期における保守的-最適累積出生率は以下の通りでした。
- POSEIDON1群:66.06-83.87%
- POSEIDON2群:37.72-53.67%
- POSEIDON3群:27.98-44.24%
- POSEIDON4群:9.68-14.20%
第1刺激周期ではPOSEIDON群による比較において、第1群が第2群(オッズ比(OR)=2.319、95%CI:2.131~2.525、P<0.001)、第3群(OR=1.356、95%CI:1.005~1.828、P=0.046)、第4群(OR=3.525、95%CI:2.774-4.479、P<0.001)に比べて出生率が高い結果でした。
卵巣刺激ではロング法に比べてアンタゴニスト法(OR=1.856、95%CI:1.640-2.100、P<0.001)、その他の卵巣刺激法(OR=1.651、95%CI:1.155-2.361、P=0.006)の出生率が高くなりました。
2回目の卵巣刺激周期についてもPOSEIDON群(POSEIDON群3を除く)および卵巣刺激方法は同様の傾向となりました。卵巣刺激方法の変更は出生率の改善とは関連しませんでした。
結論
体外受精で低反応と呼ばれる女性が中国では体外受精治療を受ける30%以上を占めています。4つのPOSEIDON群に層別化すると異なる出生結果が認められました。
体外受精治療を3周期継続して行った結果、継続することで良好な結果が得られたのは第1、第2、第3群となりました。
私見
「どのような患者にステップアップを勧めるか」とよく質問されますが、適応を満たした患者というのが大前提です。それ以外のパターンとして、1年先に体外受精を選択するより早いうちに体外受精に移行した方が赤ちゃんを授かれる確率が上がるだろうと思う患者様には体外受精を勧めるようにしています。
この論文は、臨床で治療を行っているイメージと完全に一致する解析結果になっています。
- 卵巣予備能が十分な女性は、予備能が低い女性に比べて体外受精成績が良好
- 卵巣予備能が同じ場合、若い女性の体外受精成績が良好
- 体外受精3周期繰り返した際、卵巣予備能が低い35歳以下の女性は35歳以上の卵巣刺激低反応女性と同等の出生率に到達する
もう一つの卵巣刺激低反応を示すボローニャ基準で層別化した報告でも、体外受精1周期での累積出生率は不良ですが、継続することにより3周期後には全体的な出生率が改善されています(保守的累積出生率:10.5~14.3%、最適累積出生率:10.5~23.7%)。
国内では45歳以上、または体外受精5周期での妊活終了を提案することを日本産科婦人科学会は推奨していますが、治療を始める前にこのように説明してあげることが望ましいと考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。