不育症

2020.09.26

反復流産に男性因子(精液・精子)が影響する?( Clin Chem. 2019) 

はじめに

反復流産の原因として、現在は女性の原因がメインで説明されることがほとんどですが、男性因子の関与が様々な角度から報告されています。精液の酸化ストレステストやDNAダメージをみる検査(Halosperm法)と反復流産の関係を検証した論文がありましたのでご紹介させていただきます。

ポイント

反復流産の男性パートナーは精液中の酸化ストレスが4倍、精子DNA断片化率が2倍高いことが示されました。精子運動率、前進運動率、正常形態率もすべて低下しており、男性因子の関与が示唆されます。

引用文献

Channa N Jayasena, et al. Clin Chem. 2019.DOI: 10.1373/clinchem.2018.289348. 

論文内容

反復流産既往カップル群と健常対照群の男性パートナーの間で男性のホルモン値、精液検査を比較しました。精液中の酸化ストレスは化学発光アッセイ法、DNA断片化テストはHalosperm法を用いて測定しました。

結果

①精液検査 
精子の運動率、前進運動率、正常な形態率はすべて反復流産群で減少しました。 

②男性ホルモン値 
早朝血清テストステロン(nmol/L)、血清エストラジオール(pmol/L)は、反復流産群が対照群より、それぞれ15%、16%低い傾向にありましたが、年齢を補正すると差を認めませんでした。血清LHホルモンおよびFSHホルモンは群間で差を認めませんでした。 

③精液中の酸化ストレス、精子のHalosperm結果 
酸化ストレス度は、反復流産群では対照群に比べて4倍高く(対照群、2.0±0.6;反復流産群、9.1±4.1;P<0.01)、精子DNA断片化率は、対照群よりも反復流産群が2倍高くなりました(対照群、7.3±1.0;反復流産群、16.4±1.5;P<0.0001)。 

彼らのデータは、反復流産を持つカップルの男性パートナーは生殖内分泌機能の低下、精液中の活性酸素の増加、精子のDNA断片化率の上昇があることが証明されました。 

私見

複数の研究では、反復流産の影響を受けた男性パートナーの精子のDNA断片化が、健常群と比較して増加していることが報告されています。 

肯定派:

  • Imam SNら. J Reprod Infertil 2011 
  • Henkel Rら. Asian J Androl 2011 
  • Ribas-Maynou Jら. Hum Reprod 2012 
  • Simon Lら. Fertil Steril 2011 
  • Gupta Sら. Obstet Gynecol Surv 2007 
  • Robinson Lら. Hum Reprod 2012 
  • Zhao Jら. Fertil Steril 2014 

否定派:

  • Coughlan Cら. Asian J Androl 2015 

精子のDNAのダメージは酸化ストレスと一致することが多く報告されています。精液中の酸化ストレス上昇の主な原因は、精索静脈瘤と性感染症であることが知られています。反復流産カップルの精索静脈瘤の手術は、無治療群と比較して、妊娠率を有意に改善し、流産のリスクを減少させたことが報告されています(Mansour Ghanaie Mら. Urol J 2012)。また、男性パートナーが精液中のウレアプラズマ感染を認めた患者は非感染群に比べて流産率が高かったことが報告されています(Kanakas Nら. Fertil Steril 1999)。 
興味深いのは精液中の酸化ストレスが生活習慣の改善、食事やサプリメントで改善し流産を減少させるかどうかです。結論がまだ出ておりませんが様々な臨床研究が行われている最中ですので、結果を待ちたいと思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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