はじめに
夫婦生活を持つ時期を指導するうえで、①タイミングは多いほうがよい、②タイミングをとるのは排卵5日前から当日まで(1995年にWilcoxらが報告)、③一番妊娠率に影響するのは前日というのが一般的です。当院でタイミング周期の指導をするときも上記をふまえて指導するようにしています。先日の勉強会で「排卵後も積極的に夫婦生活を持ってもいいんですか?」という質問がありました。着床時期に夫婦生活を持つと物理的刺激や出血などの可能性もあるため本当によいかどうかはわかりません。
ポイント
着床時期の夫婦生活は妊娠率を低下させる可能性があります。受精胚の着床時期に2回以上のタイミングを取ったカップルは、タイミングを取らなかったカップルと比較して妊娠率が低下することが報告されています。精液に含まれる物質が着床に与える影響はまだ解明されておらず、今後のさらなる研究が必要です。
引用文献
Anne Z Steiner, et al. Fertil Steril. 2014. DOI:10.1016/j.fertnstert.2014.03.017
論文内容
自然妊娠を試みる30~44歳 564名(70%:35歳未満、18%:35-37歳、12%:38歳以上)の女性について1,332周期の自然妊娠と夫婦生活(タイミング)の時期・回数を調査しました。各月経周期について、カレンダー法を用いて排卵日を推定しています。
排卵は、月経初日の14日前と決めて「タイミング妊娠可能時期」を排卵日の5日前から3日後まで、「受精胚の着床時期」を、排卵後5日から排卵後9日(月経周期の終了日の3~9日前に相当)としました。タイミング回数は「なし」「1回」「2回」「2回以上」に分類しました。
「タイミング妊娠可能時期」のタイミング頻度と「受精胚の着床時期」のタイミング頻度には有意な相関がありました。「受精胚の着床時期」にタイミングを2回以上とったカップルは、タイミングをとらなかったカップルと比較して、妊娠率が低くなりました(年齢、人種、定期的な月経周期の既往歴、過去の妊娠歴、BMIを調整した後)。
「受精胚の着床時期」のタイミングは、自然妊娠に悪影響を及ぼす可能性があるという結論になりました。
| 年齢、人種、定期的な月経周期の既往歴、過去の妊娠歴、BMI調整後の妊娠に影響する割合 | ||
|---|---|---|
| 着床時期にタイミングを取らない人との比較 | 95% 信頼区間 | |
| 1回 | 0.98 | 0.66-1.40 |
| 2回 | 0.76 | 0.47-1.15 |
| 2回以上 | 0.52 | 0.30-0.82 |
(論文より改変)
私見
今回の論文では受精胚が着床をする時期にタイミングをとると妊娠率が下がるという結果になりました。2014年のカレンダー法を用いた症例数もそこまで多くない論文でありますので、基礎体温管理アプリなどのビッグデータが出てきたときには結論が変わるかもしれません。ただ、現在のところタイミング法での着床時期での夫婦生活を肯定する論文を見かけなかったのも事実です(見つけられなかっただけかもしれません)。
実は精液に含まれる物質が着床にどのように影響をするかは判っておらず、現在何本かの前向き研究が進んでいます。過去の報告では「着床前」の精液曝露が着床成功の重要な免疫調節に繋がる可能性があり、「着床時期」の精液曝露が、炎症性の変化や内膜・受精胚の複雑なクロストークを妨害する可能性も指摘されています。判っていそうで判っていないことが多いのが医療です。私たちも日々固定概念にとらわれず知識を更新していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。