はじめに
ベルギーからの生殖医療従事者の環境物質汚染に対する意識調査に関する報告です。環境汚染物質への曝露は、健康管理の事前予防に関して重要かつ不可欠な要素であると考えられています。妊娠時の毒性物質の吸入、摂取、または経皮吸収は、子供への非遺伝性奇形などの発生とともに、生殖能力へ有害な影響をもたらす可能性があります。成人病が胎児起源であるとするDOHaD仮説(Davis Barker仮説)に基づいて、研究が盛んに進められています。汚染物質に対する感受性は、受精期および周産期に特に高く、器官形成への潜在的な影響となり、二分脊椎、口唇裂または口蓋裂など出生時に明らかになる可能性があります。エピジェネティックの変化は、成人期に病気に繋がる可能性があります(精巣がんや乳がん、心血管疾患の発生率が高くなる)。
生殖医療従事者がこれらのことを理解していれば、妊娠前に患者様に情報提供し少しでも予防できる可能性が出てきます。妊娠の可能性がある時期や妊娠初期に影響を与えると疑われる薬剤への曝露を制限したり、回避したりすることができます。
ポイント
環境汚染物質への曝露は生殖能力に有害な影響をもたらす可能性があり、生殖医療従事者の67%が患者に環境汚染について情報提供していました。しかし、知識不足を感じている職種は医師52%、胚培養士54%に比べて看護師85%と高い傾向にありました。
引用文献
Annick Delvigne, et al. J Assist Reprod Genet. 2020 doi: 10.1007/s10815-020-01888-2.
論文内容
環境汚染物質への曝露は、生殖医療の分野ではエビデンスが蓄積されてきています。体外受精に関わる医師、胚培養士、看護師の環境健康に関する問題意識をベルギーの生殖補助医療施設12施設で評価しました。
結果
回答率は67%でした。43.5%のART従事者は職種の違いなく患者に環境汚染の話題をしています。回答者の90%が、情報提供が有用だと考えていますが、知識不足(63%)と解決策の欠如(20.5%)を指摘しています。知識不足と感じているのは、医師(52%)、胚培養士(54%)に比べて、看護師(85%)が圧倒的に多い傾向にありました。知識を向上させるための手段として最も人気があるのは、科学的根拠の高いセミナー(69%)と回答しています。回答者の知識を確認するアンケート項目では56%が適切な回答をしていましたが、食習慣に関するトピックは理解度が非常に悪く、職業上のリスクについては理解度が高い傾向にありました。
妊娠前に不妊治療を行うことは妊娠する前の環境汚染を予防する理想的な糸口になり得ます。今後ますます、この分野を重要視することが必要と考えられています。
私見
日本でもタバコ・アルコール・カフェインなどに対する説明は一般的になってきましたが、サプリメントや食品に対する説明はまだまだだと思っています。ただし、根拠なく勧めてしまうことは本末転倒であり、商業ベースになりかねないと感じてしまうところもあり、クリニックとしては、医療に専念するのが妥当なのではないかと私自身もまだ少し古い考え方をしてしまう傾向にあります。
世界の風潮はエビデンスの蓄積とともに徐々に変わっています。私たちも根拠があることに関しては生活習慣の改善にも積極的に関わるように今後も検討したいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。