はじめに
妊娠間隔は母体および児の健康に重要な影響を与える要因として産婦人科領域で長年注目されてきました。特に不妊治療により第一子を授かった夫婦にとって、次の妊娠のタイミングは体外受精での凍結余剰胚の取り扱い、職場の育児休業制度との兼ね合い、母体の身体的回復など多くの要因を考慮する必要があります。2019年にACOGとSMFMが発表したガイドラインでは、観察研究のデータに基づき最適な妊娠間隔について科学的根拠を示しており、臨床現場での意思決定に重要な指針を提供しています。
ポイント
妊娠間隔が6ヶ月未満、分娩間隔が18ヶ月未満の場合、周産期合併症のリスクが上昇する可能性があり、特に帝王切開既往女性では子宮破裂リスクの増加が確認されています。
引用文献
American College of Obstetricians and Gynecologists. Obstet Gynecol. 2019;133:e51-72. doi:10.1097/AOG.0000000000003025.
論文内容
妊娠間隔ケアは、女性の健康状態を妊娠と妊娠の間だけでなく、その後の妊娠中、そして生涯にわたって最大化することを目的としています。妊娠間隔期間は全体的な健康とウェルネスの連続体であるため、妊娠結果に関係なく(流産、人工妊娠中絶、早産、満期産)妊娠歴のある生殖年齢のすべての女性は、産褥ケアからの継続として妊娠間隔ケアを受けるべきとしています。
妊娠間隔期間の推奨について、女性は6ヶ月未満の妊娠間隔を避けるよう助言を受けるべきで、18ヶ月未満での反復妊娠のリスクと利益について指導を受けるべきです。米国の観察研究データの大部分は、18ヶ月未満の間隔で有害転帰のリスクが軽度増加し、分娩と次の妊娠開始までの間隔が6ヶ月未満でより重大な有害転帰のリスクがあることを示唆しています。しかし最近の研究では、文献に共通する方法論に疑問が投げかけられており、短い妊娠間隔がいくつかの転帰に与える因果効果については議論が続いています。
結果
18ヶ月未満の分娩間隔は、帝王切開後の分娩試行を受ける女性の子宮破裂リスク増加と関連しています。6ヶ月未満の妊娠間隔では、母体罹患率および輸血のリスク増加があります。慢性疾患を有する女性では、妊娠間隔ケアは次回妊娠前の健康最適化の機会を提供します。将来妊娠予定のない女性についても、妊娠後の期間は二次予防および将来の健康改善の機会となります。
私見
ACOGガイドラインは、妊娠間隔に関する長年の議論に一定の科学的根拠を提供する重要な文書です。従来の産科的観点からの「授乳終了後の月経回復を待つ」という経験的指導から、より具体的な期間設定(6ヶ月未満回避、18ヶ月未満注意)へと発展させています。
妊娠間隔の短縮が周産期合併症に与える影響については、Conde-Agudelo A, et al. JAMA. 2006やZhu BP. Int J Gynaecol Obstet. 2005といった大規模メタ解析により早産、低出生体重児、胎児発育不全のリスク増加が報告されてきました。一方で、Ball SJ, et al. BMJ. 2014やHanley GE, et al. Obstet Gynecol. 2017などの最近の研究では、同一母体内での比較研究により従来の関連性に疑問を投げかけており、交絡因子の調整が不十分であった可能性を指摘しています。
帝王切開既往女性における子宮破裂リスクについては、Shipp TD, et al. Obstet Gynecol. 2001やStamilio DM, et al. Obstet Gynecol. 2007により一貫してリスク増加が確認されており、この点については議論の余地が少ないと考えられます。
不妊治療患者への適用については、ガイドラインでは一般女性と同様の間隔推奨を行っていますが、母体年齢上昇による妊孕性低下、凍結胚の品質劣化、心理的ストレスなどの特殊事情を考慮した個別化アプローチが重要と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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