体外受精

2021.02.15

卵巣刺激前のホルモン前処置は治療効率への影響(ESHRE guideline 2025年版アップデート)

はじめに

卵巣刺激前のホルモン前処置は、従来、患者様や医療施設の治療を円滑に進めるための体外受精スケジューリングや治療効率向上を目的として用いられてきました。ESHREは2025年11月に卵巣刺激ガイドラインをアップデートし、前処置療法に関する推奨事項を見直しました。今回のアップデートでは「治療のシンプル化」が重要な原則として強調され、明確な有効性が示されない限り基本的なアプローチを推奨するという方針が明示されています。

ポイント

ESHRE 2025年版では、エストロゲン、プロゲスチン、経口避妊薬、GnRHアンタゴニスト薬による前処置は有効性・安全性向上のために推奨されないとの結論に至りました。

引用文献

ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI (2025 update) Hum Reprod Open. 2025 DOI: 10.1093/hropen/hoaa076.

まとめ

①エストロゲン前処置

2025年版では、GnRHアンタゴニスト法におけるエストロゲン前処置は有効性向上のために推奨されないことが明確に示されました。従来のエビデンスでは、エストロゲン前処置により回収卵子数の増加が報告されていましたが、継続妊娠率や出生率に有意な改善は認められませんでした。
2019年版では「Conditional(条件付き)」として「おそらく推奨されません」としていましたが、2025年版では蓄積されたエビデンスに基づき、より明確な推奨となっています。

②プロゲスチン前処置

プロゲスチンによる前処置についても、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト法共に、継続妊娠率や出生率の改善に十分なエビデンスが得られておらず、有効性・安全性向上のために推奨されないとの結論となりました。

③経口避妊薬(OCP)前処置

2025年版では、12~28日間の経口避妊薬前処置はGnRHアンタゴニスト法において有効性を低下させる可能性があることから、「Strong(強い)」推奨として使用しないことが推奨されています。これは2019年版と同様の強い推奨が維持されています。

④GnRHアンタゴニスト薬前処置

遅延開始プロトコル(delayed-start protocol)を含むGnRH拮抗薬による前処置も、正常反応者・低反応者を問わず、有効性向上のエビデンスが不十分として推奨されていません。

私見

2025年版では「シンプルな卵巣刺激の重要性」が強調されており、患者負担の軽減と治療の標準化を目指したものです。従来の「何かをプラスすれば良くなるかもしれない」という発想から、「明確な利益が示されないものは使用しない」というより科学的なアプローチへの転換が表れています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# OHSS

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

1回の採卵から2人の出生:one-and-doneアプローチ(Fertil Steril. 2026)

2026.03.16

プロバイオティクス・微量栄養素サプリメントと採卵成績の関連(J Assist Reprod Genet. 2025)

2026.03.10

PCOS女性におけるIVF前経腟的卵巣穿刺術の有用性(J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.03.04

hCGトリガー日LH値とIVF周期における累積出生率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2026.03.03

EFS予防におけるGnRHaトリガー後ホルモン測定の有用性(J Assist Reprod Genet. 2025)

2026.03.02

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

高齢女性における二個胚移植の臨床結果(当院関連報告)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25