プレコンセプションケア

2023.05.20

男性のプレコンセプションケア⑤〜糖尿病と男性不妊〜

糖尿病は男性不妊と関係するようです。

今回ご紹介する論文

糖尿病が精子の質および妊娠予後に及ぼす影響の臨床的なエビデンス

Effects of diabetes mellitus on sperm quality and fertility outcomes: Clinical evidence.

Lotti F, Maggi M. Andrology. 2023 Feb;11(2):399-416. doi: 10.1111/andr.13342. PMID: 36416060.

男性不妊症の方は、普通に子供ができた方に比べて健康上の問題として併存疾患を抱えていることが多いとされています。私も日々の男性不妊の診療において、健康のチェックを行なっています。プレコンセプションケアとして確認すべき重要な疾患の一つに糖尿病があります。決して多くはないですが、射精障害で受診されて初めて重症の糖尿病と診断される場合もあります。この研究では糖尿と男性の生殖機能の関係を調べたシステマティックレビューです。

論文の要旨

この研究の背景として、糖尿病は、高い罹患率と死亡率を特徴とする世界的な問題となっていることがあります。糖尿病は、急性および慢性の全身合併症を引き起こす可能性があります。その中でも、糖尿病は精子の質や男性/夫婦の生殖能力に悪影響を及ぼすことが示唆されています。しかし、糖尿病患者を対象とした研究は、比較的小規模な集団を対象としており、その結果は一致していません。

そこで、この研究は糖尿病が精子の質と生殖能力に及ぼす影響について、臨床的なエビデンスを評価することを目的に行われました。この研究は、医学的研究論文のデータベースであるMedlineにて広く検索を行い、英語による研究を抽出して解析されました。

結果は次のようになりました。不妊男性における糖尿病の有病率は0.7%から1.4%であり、糖尿病男性における不妊症の有病率は35%から51%でした。男性の糖尿病は夫婦の生殖機能に悪影響を及ぼすと考えられますが、子供のいない男性や不妊症の男性は糖尿病のリスクが高い可能性があります。糖尿病の男性における精液パラメータと男性性ホルモンを調査した横断的研究の結果からは、一定した見解は得られませんでした。その背景として、評価した研究は比較的小さな集団を対象としたもので、矛盾した結果となっており、確定的な結論を導き出すために直接の比較ができなかったことが挙げられます。2つのメタアナリシスでは、糖尿病が精子正常形態率を低下させるものの、総精子数に影響を与えないことが示されましたが、他の精液パラメータに関しては一貫した結果は得られませんでした。1型糖尿病男性に関する研究のみを検討したメタアナリシスでは、糖尿病が精子運動率を低下させるものの、総精子数に影響を与えないことが示されましたが、他の精液パラメータに関しては一定の結果は得られませんでした。1型糖尿病男性では、対照群と比較して生児獲得数や生児獲得率や低く、特に糖尿病の罹患期間が長くなるとより低くなりました。生殖補助医療を受ける糖尿病の男性パートナーを持つカップルでは、対照群よりも妊娠率が低い結果でした。一方で、糖尿病治療が精液の質と男性の生殖機能に与える影響を評価した研究はありませんでした。

結論としては以下のようになります。利用した研究結果から、糖尿病が男性やカップルの生殖機能を損なう可能性があることが示されました。しかし、より大規模で詳細な研究が必要であることも確かです。

筆者の意見

不妊男性のうち糖尿病の方が1%程度いるということで、実感と同じくらいです。糖尿病が精液所見に関する影響があること、また、糖尿病の方は子供数が少ないとか子供ができない確率がより高くなることが示されており、確実に確認すべき疾患であると再確認されました。生まれた子どもへの影響がどうなのかも気になりますが、この研究では検討されていません。また、糖尿病の治療が不妊症の改善に効果があるかどうかについても重要と考えます。今後の展開に期待します。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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