男性不妊

2023.05.06

化学物質暴露と出生性比率

研究の紹介

父親が殺虫剤をよくつかっていると、女児がうまれてくることが多い?!

父親の化学物質への職業曝露と子供の男女比:わが国のエコチル調査の結果から

Paternal occupational exposure to chemicals and secondary sex ratio: results from the Japan Environment and Children’s Study.

Adachi S, Sawaki J, Tokuda N, Tanaka H, Sawai H, Takeshima Y, Shibahara H, Shima M; Japan Environment and Children’s Study Group. Lancet Planet Health. 2019 Dec;3(12):e529-e538. PMID: 31868601.Abstract

化学物質への曝露により出生児の男女比が変化することは以前から指摘されていました。血中のダイオキシン濃度が高い男性では女児が多くなっていたり、ポリ塩化ビフェニルや水銀への曝露が影響を与えることも示されています。また、麻酔科に勤務し、職場で吸入麻酔薬を使用している親では、女性の子孫を持つ確率が高かったと報告されています。この研究ではわが国の前向きの出生コホート研究のデータを用いて、影響を調べています。

研究の内容

先進国中では出生児に占める男児の割合の減少が起きていることが報告されています。これまでの報告では、特定の化学物質への曝露が出生性比(出生児の性別の男女の割合、ここでは男児の割合)に影響を与える可能性があることが示されています。この研究では、大規模出生コホート研究である⼦どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査, JECS)を用いて、父親の職業による化学物質曝露とその子どもの出生性比(男児の割合)との関連性を調べました。

研究の方法は以下の通りとなっています。JECSに登録された妊婦のパートナーを対象に、父親の様々な化学物質への職業での曝露とその他の共変量に関するデータを自己記入式質問紙で収集しました。潜在的な交絡因子を調整した後、多変量修正ポアソン回帰モデルを用いて、父親の職業曝露とその子供の出生性比(男児の割合)との関連を評価しました。この研究は、UMINに登録されています(番号UMIN000030786)。

研究結果は次のようになっていました。JECS研究では、103062件の妊娠、104065の胎児、51898名の妊婦の男性パートナーに関するデータを収集しました。父親の職業曝露に関するデータが得られた50283名の子供のうち、25657名が男児で、24626名が女児でした。父親が職業上定期的に職業曝露していた場合の男児の割合は0.445(男児293名、女児366名、95%CI 0.406-0.483)であり、父親が殺虫剤に曝露していなかった場合の男児の割合より低い結果でした。交絡因子を調整した後、殺虫剤(調整相対リスク0.86、95%CI 0.78-0.96)および医療用消毒剤(調整相対リスク0.95、95%CI 0.90-1.00)に父親が常に職業上暴露されている場合、これらの物質に暴露されていない父親の児と比較して、男児の割合が有意に低い結果となっていました。

結論として、出生児の中で男児の割合が減少しているのは、父親が化学物質にさらされる環境で働いていることが原因である可能性があります。精液所見の低下と性ホルモンおよび甲状腺ホルモンのレベルとの関連性については、調査が必要です。

資金提供 環境省

筆者の意見

この研究での出生児全体の中での男児の占める割合は0.51となっており、男児の方が多いのですが、父親が殺虫剤を常用している場合は0.445となりかなり低い結果でした。また、全身麻酔を行っている父親の場合も男児の占める割合は、0.449と低かったのですが、多変量解析では有意差なしとなっていました。他の化学物質で男児の割合が低めだったのは、除草剤、その他の農業化学品、水銀、放射線同位元素(放射線を含む)への日常的な曝露がありました。この研究は男性パートナーが質問票に回答した割合が、全体の半分程度で、さらに解析症例が39539例とかなり減ってしまっていることが結果に影響を与えている可能性があります。仕事では避けることは難しいですが、そうでない場合は化学物質への曝露はなるべく避ける方が良さそうです。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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