男性不妊

  • Home
  • 男性不妊
  • リスク因子
  • 男性のプレコンセプションケア⑦〜父親がメタボだと、子供の救急受診が増えてしまう?

2023.08.26

男性のプレコンセプションケア⑦〜父親がメタボだと、子供の救急受診が増えてしまう?

研究の紹介

妊娠前の父親のメタボリックシンドロームと幼児期の救急外来受診および入院との関連 

The association of preconception paternal metabolic syndrome on early childhood emergency department visits and hospitalizations. 

Chen T, et al. Andrology. 2023 Sep;11(6):1057-1066. doi: 10.1111/andr.13370. PMID: 36542456. 

妊娠前の父親の合併症が多いと、妊娠転帰の悪化のリスクが増加することが報告されています。我々のブログでも、 

  • 男性のプレコンセプションケア①~男性の健康と周産期予後~(論文紹介) 
  • 男性のプレコンセプションケア②~父親の健康状態が母体の健康に影響を与えることについて(論文紹介) 
  • 男性のプレコンセプションケア⑤~父親がメタボだと、息子の男性生殖器に先天異常(停留精巣や尿道下裂)が発生しやすくなる?(論文紹介) 

といったことをご紹介しております。しかし、父親の健康状態が出生後の子どもに影響を及ぼすかどうかはまだまだ不明なことが多いです。 

研究の要旨

この研究では、妊娠前の父親のメタボリックシンドロームの状態とその子供が小児期に救急外来受診や入院をしたかどうかの関連性を検討しています。 

IBM MarketScan Researchデータベース内に2009年から2016年の間に米国で登録された夫婦(父親と母親のペア)から生まれた子ども(295,355名の男児と278,735名の女児)を対象とした縦断コホート研究です。父親と母親のメタボリックシンドローム構成要素*(この研究では高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症)の診断と、その子供の生後2年以内の入院および救急外来受診の有無との関連性を検討しました。 

結果
子供の35.5%(203,617/574,090)が少なくとも1回救急外来を受診し、6.1%(35,141/574,090)が入院していました。母親の因子を調整後、入院と救急外来受診のリスクは、合併症の多い父親ほど、メタボリックシンドローム構成要素*が多いほど増加していました。また、救急外来の受診率についても同様の結果を認めました。

結論
父親の妊娠前の合併症*(メタボ)の増加によって、その子供の生後2年間に救急外来の受診や入院治療を必要とするリスクの増加していました。研究者らは、男性とその子供の健康を良好なものにするために、男性が妊娠前のカウンセリングを受けることができるとしています。

表 父親も併存疾患と児の入院・救急外来受診のリスク 

父親の合併症(高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症) なし 一つ 二つ 三つ以上 
入院1回以上vsなし オッズ比 (95%信頼区間) reference 1.08 (1.05–1.11) 1.13 (1.08–1.19) 1.09 (0.997–1.20) 
救急外来受診1回以上vsなし オッズ比 (95%信頼区間) reference 1.07 (1.05–1.09) 1.09 (1.06–1.13) 1.22 (1.15–1.29) 

筆者の意見

子供の健康に与える影響は、母親の健康状態の方が大きいです。しかしながら、母親の因子で調整しても、父親の健康状態の悪化、ここでは高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症といった併存症が多くなると、子供を緊急で病院に連れて行くことや入院の必要性が増えてしまうという結果でした。日本とは医療システムが異なりますので直接の比較はできませんが、病院にかかりづらい米国では親はより大変な思いをするかもしれません。父親の併存疾患がその子供の健康に影響する機序ですが、やはり精子エピジェネティクスの変化が考えられています。一方で、併存疾患は精液検査所見を悪化させますが、その治療により精液所見の改善も期待できます。併存疾患の治療により、その子供の健康状態が改善するかどうかについては、まだ今後の課題です。米国と違って我が国では医療機関を受診することは比較的容易です。子供が欲しいと思ったら、男性パートナーも自分の健康をチェックして、健康的に過ごして欲しいと思います。そのことで、自分の子供(および妊娠中の女性パートナー)の健康にもつながる可能性があるからです。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 体重、BMI

# 出生児予後

# プレコンセプション

# 疫学研究・データベース

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

男性不妊の人気記事

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

日本から男性妊活用抗酸化サプリメントの最新エビデンスです 

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

2023.02.18

精索静脈瘤についてAndrologiaに掲載された最近の研究結果② ~精索静脈瘤手術後の再発に対する再手術~

精索静脈瘤についてAndrologiaに掲載された最近の研究結果① ~精索静脈瘤に対する抗酸化剤サプリメント~

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

2025.12.09

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10