男性不妊

2023.07.22

精子数の減少はアジアを含めた世界的な現象

研究の紹介

精子数の推移:20世紀と21世紀に世界的に収集されたサンプルの系統的レビューとメタアナリシス 

Temporal trends in sperm count: a systematic review and meta-regression analysis of samples collected globally in the 20th and 21st centuries.  
Levine H, ほか. Hum Reprod Update. 2023 Mar 1;29(2):157-176. PMID: 36377604. 

精子数が減少傾向にあることが以前から言われています。今回ご紹介する研究を発表した同じ研究グループが、すでに2017年に北米と欧州および豪州での結果を用いて精子数が減少していることを公表しています(Levine H, ほか Hum Reprod Update 2017;23:646–659. )。その際には他の地域からのデータが少なかったため、研究結果には含まれていませんでした。今回の研究は、中南米とアジア、アフリカでの精子数の動向も含めて解析するとともに、2017年に明らかとなった精子数減少の傾向が継続して起きているかどうかを明らかにするために行われました。この研究以前にも中国やインドで精子数が減少していることを示した研究はありますが、Human Reproduction Updateという生殖医学ではトップの雑誌に掲載されていましたので、紹介いたします。 

研究の要旨

研究の目的は、全大陸の男性の精子数の傾向を調べることです。
検索方法は以下のとおりです。PubMed/MEDLINEおよびEMBASEを検索し、2014~2019年に発表されたヒトの精子濃度(sperm concentration, SC)および総精子数(total sperm count, TSC)に関する研究を選びました。868の医学論文を検討した結果、38の研究でのSCとTSCの計測値が本研究のプロトコールの基準を満たし、データとして解析に使用されました。精液検査のパラメータ(SC、TSC、精液量)、採取年などに関するデータが抽出されました。これらの新しいデータを前回のメタアナリシスのデータと組み合わせると、今回のメタアナリシスには1973年から2018年に収集された223の研究結果を利用できました。SCおよびTSCのトレンドが解析されました。データは、fertile(生殖機能あり)の症例のデータであるか、生殖機能に関係なく収集されたか(非選択男性、unselected for fertility)、および大陸の2つのグループ(America-Europe-Australia、NEAおよび South/Central America-Asia-Africa、SAA)にわけて検討されました。

結果

解析対象となった男性は、57,168名でした。全体として、SCは1973年から2018年の間に著しく減少していました(-0.87×10^6 /mL/年、95%CI:-0.89~-0.86、P<0.001)。NEAの非選択男性(unselected for fertility)で減少が認められ(-1.27;-1.78~-0.77;P<0.001)、SAAの非選択男性(unselected for fertility)(-0.65;-1.29~-0.01;P=0.045)、NEAの生殖機能あり(fertile)の男性(-0.50;-1.00~-0.01;P=0.046)で減少が認められました。すべての大陸の非選択男性(unselected for fertility)において、精子濃度は、1973年は101.2 x10^6/ml、2018年は 49.0×10^6/mLと推定され、平均のSCは1973年から2018年の間に51.6%減少していました(-1.17:-1.66~-0.68;P<0.001)。2000年以降のデータに限定したモデルでは、非選択男性(unselected for fertility)におけるSCの減少のスピードはより加速しており(-1.73:-3.23~-0.24;P=0.024)、1年当たりの減少率は2倍になり、1972年以降の1.16%から2000年以降は2.64%に増加していました。TSCの結果も同様で、非選択男性(unselected for fertility)では1973年のTSCは335.7×10^6、2018年は126.6×10^6であり、TSCの減少率は年間1.40%、全体では62.3%減少していました(-4.70×10^6/年;-6.56~-2.83;P<0.001)。
この研究は、南・中米、アジア、アフリカの非選択男性(unselected for fertility)における精子数減少を初めて報告した解析結果であり、これらの大陸でのデータを調査するにはデータが不十分であった前回の2017年のメタアナリシスとは対照的です。さらに、この世界的な減少は21世紀に入って加速していることおよび続いていることがデータから示唆されています。この継続的な減少の原因に関する研究と、男性の生殖機能の健康がこれ以上損なわれないための対策が緊急に必要です。 

生殖機能の関係なく収集されたデータに基づく精子数の推移 

1972年以降 2000年以降 
精子濃度の年あたりの減少(x10^6/mL/年) 1.17 1.73 
総精子数の年あたりの減少(x10^6/年) 4.7 5.26 
北米欧州豪州 中南米アジアアフリカ 
精子濃度の年あたりの減少(x10^6/mL/年) 1.3 0.84 
総精子数の年あたりの減少(x10^6/年) 5.05 3.79 

筆者のコメント

やはり精子数は減少していて、その傾向は継続していること、アジアのデータを含めた解析でも精子減少傾向は変わらないことが示されていました。また、精子数減少のトレンドは加速しているということで大きな問題です。地域別には有意な差はありませんが、中南米アジアアフリカ地域の方が、減少の程度はやや少ないようです。アジアを含めた地域でも減少していることにはやはり変わりはありません。精子減少の原因が知りたいのですが、その点については今後の研究に任せるということがのべられていました。減少したとしてもWHOの基準値は満たしている範囲での減少ですが、ひとついえるのは、早めに子作りをするにこしたことはないということでしょうか。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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