プレコンセプションケア

2022.11.19

精子数はダイエットによる体重減少に伴って増加し、運動またはGLP-1アナログ治療によって維持される(論文紹介)

Q.肥満で悪化した精液所見は、減量で改善するのでしょうか?
A.減量した後、運動やGLP-1受容体作動薬(liraglutide;ビクトーザ)の注射で体重を維持することで改善が期待できます。

今回ご紹介する論文

精子数はダイエットによる体重減少に伴って増加し、運動またはGLP-1アナログ治療によって維持される:無作為化比較試験の結果

Sperm count is increased by diet-induced weight loss and maintained by exercise or GLP-1 analogue treatment: a randomized controlled trial.

Andersen E, 他. Hum Reprod. 2022 Jun 30;37(7):1414-1422. doi: 10.1093/humrep/deac096. PMID: 35580859.

BMIが高い場合や肥満は、精子数、精子運動率、精子正常形態率の低下を来たし、男性の生殖機能低下の原因となることが知られています。一方で、減量によって精液所見がどの程度改善するのかについては、現時点では十分なエビデンスが蓄積されているとは言えません。
S-LiTE試験(Lundgren JR ら、New England Journal of Medicine、2021)は、食事療法による減量介入後、運動療法、GLP-1受容体作動薬治療(リラグルチド:liraglutide)、あるいはその併用によって体重減少を維持することを検討した臨床試験です。本試験では、肥満に伴う代謝への有害な影響が、減量により大きく改善することが示されました。今回取り上げている研究は、このS-LiTE試験の一部として実施されたものです。
リラグルチド(liraglutide、ビクトーザ®)はGLP-1受容体作動薬で、我が国では2010年1月に2型糖尿病治療薬として承認されています。本剤は欧州医薬品庁(EMA)で2009年7月に、米国食品医薬品局(FDA)で2010年1月に承認されました。食欲抑制作用や身体活動性の上昇などの作用を有し、成人肥満症患者における低カロリーダイエットを補助し、体重を長期的に維持管理する目的で用いられる薬剤です。米国では肥満や体重管理において、BMI30kg/m²以上、あるいはBMI27kg/m²以上で高血圧や2型糖尿病、脂質異常症などの併存疾患を有する場合に使用が承認されていますが、我が国では肥満症に対する適応はありません。
プレコンセプションケアの観点からも、適切な体重を獲得し、維持することは極めて重要ですが、単に食事量を減らすだけでは十分ではありません。本研究では、食事療法によって減量した後、運動療法またはリラグルチドによって体重を維持した場合に精液所見がどのように変化するのかを、前向き無作為化二重盲検試験として検討しています。

論文の要旨

この研究は低カロリー食のダイエットによる体重減少が精液所見のパラメーターを改善するか、また、持続的な減少した体重を持続することによって精液所見が維持されるかを検討したものです。結論を先にご紹介すると、8週間の低カロリー食による減量後は、精子濃度および精子数の改善していました。また、減量を維持した男性では1年後もその精液所見が改善した状態が維持されていました。この研究について概説します。

これまでに知られていることとして、肥満は精液の質の低下と関連していることがあります。また、減量によって肥満の健康への影響が改善されますが、減量することによる精液パラメータへの早期および長期的効果についてはエビデンスに乏しいということがあります。

この研究デザインは以下のようになっています。無作為化対照二重盲検試験である「S-LiTE試験」という肥満男性の研究に付随して行われました。今回ご紹介している研究は臨床試験で、2016年8月から2019年11月の間に実施されたものです。合計56名の男性がこの臨床試験に参加し、まず8週間の低カロリー食(800 kcal/日)によるダイエットを行ないました(n=47)。5%の体重減少が得られた症例は、続けて52週間の以下の4つのいずれかのプログラムにランダムに割り付けられました(n=37):

i)プラセボと習慣的活動(プラセボ群)(8名)
ii)運動トレーニングとプラセボ(運動群)(9名)
iii)グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)アナログのリラグルチドと習慣的活動(リラグルチド群)(7名)
iv)リラグルチドと運動トレーニング(組合せ群)(13名)

参加者の組み入れ基準は、以下のようになっています。精液検体を提供した男性で、年齢は18~65歳、肥満度(BMI)が32~43kg/m2、肥満以外は問題なく健康な症例です。本研究はHvidovre病院とCopenhagen大学で実施され、参加者はCopenhagen市およびその周辺部に住んでいる男性でした。精液所見のパラメータと身体測定値を評価し、8週間の低カロリー食事介入前(T0)、介入後(T1)、さらにその52週間後(T2)に血液サンプルを採取しました。

結果は以下の通りになっていました。参加男性では、低カロリーダイエット中に体重が平均16.5kg(95%CI:15.2-17.8)減り、精子濃度が1.49倍(95%CI:1.18-1.88、P < 0.01)、精子数が1.41倍(95%CI:1.07-1.87、P < 0.01)増加しました。これらの改善は、体重減少が良好に維持された男性では52週間維持されましたが、体重の維持が不良と判断された男性では維持されませんでした。精液量、精子運動率、運動精子数には変化がありませんでした。

この研究の意義は、肥満の男性が、食事制限による減量(ダイエット)をした後に精子濃度と精子数が改善されることを示したことです。さらに、体重維持の方法としてリラグルチドと運動のいずれか、または両方を用いることで、精子濃度と精子数の改善を維持できる可能性が示されています。

研究の限界(limitation)、注意すべき点としては、S-LiTE試験は、減量維持の無作為化対照試験であることです。精液の分析は、減量と減量維持の精液所見のパラメータへの影響を検討するに事前に登録されていましたが、明確な推論を行うことはできないとしています。

図1. ダイエット前(T0)と後(T1)の体重、精液所見(平均値) *有意差あり

図2. 体重減少後の体重と精液所見の変化:維持が不良な症例(n =19)体重減少前(T0)と52週後(T2)を示した。

図3. 体重減少後の体重と精液所見の変化:維持が良好な症例(n =18)の体重減少前(T0)と52週後(T2)を示した。

図2,3ではT0からT2までの体重減少の中央値は11.7kgで、この値を境に維持良好[平均体重減少21.4kg(95%CI:16.8-26.1kg)、18症例]と維持不良[平均体重減少7.6kg(95%CI:5.8-9.4kg)、19症例]に分けています。

筆者の意見と考察

本研究では、肥満のある男性において、低カロリー食による減量後8週間で精液所見の改善が期待できること、体重を維持できない場合には再び精液所見が悪化することが示されました。また、減量後の体重維持には、積極的かつ計画的な運動トレーニング、あるいはリラグルチド注射が有効であることが明らかになりました。
体重維持期における介入効果を群別にみると、リラグルチドと運動トレーニングを併用した群が最も体重維持効果に優れており、次いで運動トレーニングとプラセボを併用した群、リラグルチドと習慣的身体活動を組み合わせた群の順に良好な結果が示されました。一方、プラセボと習慣的身体活動のみの群では、体重の再増加が認められています。なお、本研究における運動介入は、トレーナーの指導下で実施されており、運動を「きちんと行う」ことの重要性が示唆されます。
精液所見については、各群別では症例数が少なくなるという制約はあるものの、リラグルチド群およびリラグルチドと運動の併用群、すなわちリラグルチドを用いた介入群において、精液所見の改善が良好に維持されていました。
体重コントロールに唯一の正解はありませんが、本研究の結果からは、リラグルチドを用いた介入が有効な選択肢の一つであることが示唆されます。米国で肥満症治療として承認されている背景を考えると、その有用性は理解しやすい一方で、我が国では保険診療として使用できない点は課題です。
一方で、本研究の結果を解釈する際には、対象患者の背景に注意が必要です。登録基準はBMI 32~37でしたが、実際の対象者は体重が平均122.3±13.7kg、BMI 37.0±2.8kg/m²、胴囲119.3±8.4cmと、高度肥満に該当する症例が中心でした。当施設の受診者においてBMI 32~43に該当する方は約3.8%にとどまるため、適応となる患者さんは多くはありませんが、一定数存在することも事実です。
また、BMIは体組成を必ずしも正確に反映する指標ではありません。今後は、より軽度の肥満症例や、体組成計などを用いた詳細な評価に基づく研究結果が期待されます。当院ではBMI 30以上の方に対して積極的に栄養・食事指導を行っていますが、それだけでは不十分である可能性も、本研究は示唆していると考えられます。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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