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2022.07.02

男性型脱毛症(AGA)治療薬であるフィナステリド(プロペシア®)やデュタステリド(ザガーロ®)を飲むと不妊症になるのでしょうか? その1(論文紹介)

不妊症ではない若年の健康な方では、フィナステリド1mg(プロペシア®)の投与によって精子の数や精子の運動性に影響なさそうです。 

論文紹介

「フィナステリドによる治療は、若い男性の精子形成や精液産生に影響を与えない」(Overstreet JW, et al. J Urol. 1999. PMID: 10492183) 
Overstreet JW, Fuh VL, Gould J, Howards SS, Lieber MM, Hellstrom W, Shapiro S, Carroll P, Corfman RS, Petrou S, Lewis R, Toth P, Shown T, Roy J, Jarow JP, Bonilla J, Jacobsen CA, Wang DZ, Kaufman KD. Chronic treatment with finasteride daily does not affect spermatogenesis or semen production in young men. J Urol. 1999 Oct;162(4):1295-300. PMID: 10492183. 

“男性型脱毛症(AGA)治療薬であるフィナステリド(プロペシア®)やデュタステリド(ザガーロ®)を飲むと不妊症になるのでしょうか?”という話題についての論文を紹介し、3回にわたってお伝えしています。
男性型脱毛症(AGA)治療薬であるフィナステリドは、もともと前立腺肥大症の治療薬として開発されました。さらに、AGA治療薬としても適応となり利用されています。また、前立腺癌の予防効果も証明されています。日本では、0.2mgと1mgの使用が認可されていますが、保険収載はされていないため、自費診療での使用となっています。フィナステリドは、主要な男性ホルモンであるテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する5α-還元酵素の作用を抑制することにより治療効果を発揮します。この結果、体内のジヒドロテストステロンの濃度は減少し、テストステロン濃度は上昇します。ジヒドロテストステロンは、男性ホルモンとしてもっとも強い作用を有するため、この薬剤により男性ホルモンの作用がある程度抑えられることになります。この薬剤は5α-還元酵素II型を抑制します。精子形成には男性ホルモンが必要なために、当初から精子形成に影響を及ぼすことが懸念されていました。海外では前立腺肥大症に対してフィナステリド1日5mgが投与されており、この量では精液量が25%減少すること、そのほか前立腺体積が20%縮小すること、前立腺癌の腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)の50%減少効果があることが既に報告されていました。 

論文の要旨: 

この論文は、フィナステリド1日1mgを内服することの影響を検討したものです。精子形成や、精液量、前立腺体積、PSA値がどのように変化するかについて、多施設の二重盲検無作為化比較試験にて解析しています。 

解析対象となったのは、19歳から41歳の健常者181名です。これらが無作為にフィナステリド1日1mgを内服する群および偽薬(プラセボ、有効成分の入っていないもの)を内服する群に振り分けられました。フィナステリドおよび偽薬は、48週間内服し、60週間休薬しました。 

結果: 

フィナステリド1日1mg内服により、精子濃度、総精子数、精子運動率、精子正常形態率に有意な変化はありませんでした。精液量はフィナステリド内服群で0.3mL(11%)の減少、偽薬内服群で0.2mL(8%)の減少で、両者の差の中央値は0.03mLで有意なものではありませんでした。一方、フィナステリド内服群で前立腺体積は2.6%の減少、PSA値は0.2ng/mLの減少でいずれも有意な変化でした。この変化はフィナステリド中止によりもとにもどりました。 

結論: 

若年健常者において、1日1mgのフィナステリド内服48週間では、精子形成や精液量に影響はないということになります。また、前立腺肥大がない若い方でもフィナステリド内服により前立腺体積は減少しましたが、中止により回復しました。 

筆者の意見

フィナステリドやデュタステリドといった5α-還元酵素阻害薬はAGA治療薬として広く用いられています。この研究は古いものですが、症例数はある程度あり、多施設の無作為化試験という比較的質の高いものです。この研究からわかるのは、”若年の健常者において”は、フィナステリド1mgの投与によって精子の数や精子の運動性に影響はないだろうということです。最近の後ろ向きの研究でもAGA治療としてフィナステリド1日1mgの内服により、有意に精子数の減少が起きたことが報告されました(Pallotti F et al, Endocrine. 2020)。この研究でも、フィナステリド開始時の精子数がとても多かったため、大抵の場合は減少しても問題ないレベルに収まっていました。我が国で認可されている0.2mgではさらに影響が小さいことが予想されます。他の研究では妊娠中に精液からこの薬剤が移行することの問題も検討されていますが、ごく微量なので妊娠に影響しないと結論づけられています(Laborde E and Brannigan R, J Androl 2010)。
ただし、今回ご紹介した研究には不妊症の症例や、より高齢の男性は基本的に含まれていませんので解釈には注意が必要です。
他の記事にて、5α-還元酵素I型およびII型の両方の作用を阻害するデュタステリドについてご紹介しています。

参考文献 

  • Overstreet JW, Fuh VL, Gould J, Howards SS, Lieber MM, Hellstrom W, Shapiro S, Carroll P, Corfman RS, Petrou S, Lewis R, Toth P, Shown T, Roy J, Jarow JP, Bonilla J, Jacobsen CA, Wang DZ, Kaufman KD. Chronic treatment with finasteride daily does not affect spermatogenesis or semen production in young men. J Urol. 1999 Oct;162(4):1295-300. PMID: 10492183. 
  • Pallotti F, Senofonte G, Pelloni M, Cargnelutti F, Carlini T, Radicioni AF, Rossi A, Lenzi A, Paoli D, Lombardo F. Androgenetic alopecia: effects of oral finasteride on hormone profile, reproduction and sexual function. Endocrine. 2020 Jun;68(3):688-694. doi: 10.1007/s12020-020-02219-2. PMID: 32052367. 
  • Laborde E, Brannigan RE. Effect of 1-mg dose of finasteride on spermatogenesis and pregnancy. J Androl. 2010 Mar-Apr;31(2):e1-2. doi: 10.2164/jandrol.109.009381. PMID: 19834128. 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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