プレコンセプションケア

2026.01.24

精液所見は、将来の健康を映す鏡かもしれません (Hum Reprod, 2025)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
精液の質と寿命:最大50年間追跡した78,284人男性の研究

英語タイトル
Semen quality and lifespan: a study of 78 284 men followed for up to 50 years

Priskorn L, 他. Hum Reprod. 2025 Apr 1;40(4):730-738. doi: 10.1093/humrep/deaf023. PMID: 40037905.

はじめに

私たちはこれまで、精液所見は妊娠のしやすさだけでなく、男性の健康状態そのものを反映しているとお伝えしてきました。妊活というと治療や検査に意識が向きがちですが、その土台となるのは、日々の体調管理や生活習慣を含めた「健康そのもの」です。
精子は一度つくられて終わりではなく、新しくつくられるまでにおよそ3か月の時間を要します。そのため、直前の努力だけで精液所見が大きく改善するわけではなく、数か月単位での健康維持が精子の質に影響することになります。睡眠、食事、運動、ストレス管理、生活習慣など、日常生活の積み重ねが、精液所見として現れてくるのです。
近年の研究では、精子の数や運動性、形態といった精液所見が、将来の健康状態や寿命とも関連している可能性が示されています。妊活は単に妊娠を目指す過程ではなく、ご自身の健康を見直す大切な機会でもあります。今回ご紹介する研究は、その考えを裏づける重要な知見を示しています。

研究のポイント

精子の数や運動性が良好な男性ほど、将来的に長生きする傾向が認められました。
精子の質が最も良い群では、最も低い群と比べて平均で約2〜3年寿命が長い結果でした。
この関連は、当時の病気や学歴などを考慮しても変わりませんでした。

研究の要旨

研究課題

精液の質は男性の寿命と関連しているのでしょうか。

回答の要約

総運動精子数が1億2,000万以上の男性は、総運動精子数が0〜500万の男性と比較して、平均で2.7年長く生きると推定されました。

既知の背景

男性不妊や精液の質は、罹患率や死亡率の指標となる可能性が示唆されてきましたが、精液検査時点で既に存在していた基礎疾患の影響については十分に検討されていませんでした。本研究の目的は、精液の質と死亡率との関連を明らかにするとともに、精液検査前の男性の健康状態がこの関連に与える影響を評価することでした。

研究デザイン・対象・期間

本研究は、1965年から2015年の間に、デンマーク・コペンハーゲン地域の公的精液検査施設において、不妊を理由に精液検査を受けた78,284人の男性を対象としたコホート研究です。精液検査では、精液量、精子濃度、精子運動率、精子正常形率を評価し、総精子数および総運動精子数を算出しました。デンマークの全国登録データを用いて、全死亡をアウトカムとした追跡を行い、追跡期間の中央値は23年(5–95パーセンタイル:8–45年)で、その間に8,600人(11.0%)が死亡していました。

対象・方法

精液の質別に平均余命を算出しました。また、Cox比例ハザードモデルを用いて全死亡リスクを評価し、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出しました。さらに、1987年以降に精液検査を受けた59,657人のサブコホートでは、教育歴および精液検査前10年間の既往疾患情報を調整因子として解析に組み込みました。

主な結果

総運動精子数が1億2,000万を超える男性の推定寿命は80.3歳であり、総運動精子数が0〜500万の男性では77.6歳でした。Cox回帰分析では、すべての精液パラメータにおいて、精液の質が低下するほど死亡率が上昇する明確な関係が認められました(すべてP < 0.001)。教育歴や既往疾患で調整後もこの関連は維持されました。
総運動精子数を例にすると、1億2,000万超を基準とした調整後HRは、無精子症で1.39、0〜500万で1.61、500万超〜1,000万で1.38、1,000万超〜4,000万で1.27、4,000万超〜8,000万で1.16、8,000万超〜1億2,000万で1.19でした。

限界

本研究は大規模かつ長期追跡が可能な点が強みですが、生活習慣に関する情報が得られなかった点、また精液検査前の健康状態の評価が入院診断情報に限定されている点が限界として挙げられます。さらに、無精子症群は閉塞性と非閉塞性を区別できず、精巣機能の状態が一様ではない可能性があります。

結論・意義

本研究では、すべての精液パラメータにおいて、精液の質と全死亡率との間に明確な負の関係が認められました。この関連は、教育歴や精液検査時点で登録されていた疾患では説明されませんでした。精液の質が低下している一部の男性では、より不健康な加齢過程をたどる可能性があり、精液検査の時点で将来リスクの高い集団を同定できる可能性が示唆されます。

表.総運動精子数カテゴリー別の推定寿命 
(論文中に数値が明示されているカテゴリーのみ) 

総運動精子数 推定寿命 
>1億2,000万 80.3歳 
無精子症 78.0歳 
0〜500万 77.6歳 

私見と解説

本研究の結果は、精液所見が男性の健康状態を反映しているという、これまでの研究を裏付けるものでした。同時に、私自身がこれまでコラムや診察の場で患者さんにお伝えしてきた考え方が、科学的にも支持されていることを確認する研究でもあったと感じています。
本研究では、精子の数や運動性だけでなく、精液量を含むすべての精液パラメータにおいて、値が低いほど推定寿命が短くなる傾向が示されました。たとえば精液量についても、量が少ない群ほど推定寿命が短い傾向がみられましたが(精液量が1mL未満の方の寿命は77歳未満)、著者らは特定のカットオフ値を強調するのではなく、精液所見全体を健康状態の指標として捉えています。これは、精液検査の結果を「良い・悪い」で単純に判断するのではなく、男性の体全体の状態を反映する連続的なサインとして解釈すべきである、という立場を示しています。
妊活に取り組まれている方の多くは、「まずは子どもを授かること」で精一杯だと思います。しかし、お子様を授かった後には、長い子育ての時間が始まります。その中で、親御さん自身の健康は、子どもが健やかに成長していくための重要な基盤となります。
また、精子は新しくつくられるまでに約3か月を要します。短期間の対策だけで精液所見が大きく変わるわけではなく、数か月単位での健康維持や生活習慣の積み重ねが、精液所見として表れてきます。妊活は単なる通過点ではなく、これから続く人生や子育てを見据えて、ご自身の健康と向き合う大切な機会でもあります。
精液検査の結果をきっかけに、妊娠だけでなく、その先の家族の時間を支える健康づくりについても考えていただければと思います。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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