男性不妊

2022.01.21

精子DNA断片化検査の位置付け(WHO精液検査マニュアル第6版)

はじめに

WHOは2021年に精液検査マニュアル第6版を発刊し、従来の基本的な精液検査に加えて、精子DNA断片化検査を含む拡張検査項目を新たに位置づけました。精子DNA損傷は、DNAの正常構造が化学的に変化することと定義され、一本鎖または二本鎖の切断という形で遺伝子に障害を与えます。通常の精液所見が正常範囲でも精子DNA断片化だけが高値を示す症例があり、受精後の胚発育、着床、妊娠に影響を与える可能性が複数の論文で報告されています。今回、WHO精液検査マニュアル第6版における精子DNA断片化検査の位置づけについてご紹介いたします。

ポイント

精子DNA断片化検査は拡張検査項目として位置づけられ、複数の評価方法が臨床応用されているものの、基準値は設定されず各検査室での独自基準範囲設定が推奨されています。

引用文献

World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, Sixth edition. Geneva: World Health Organization; 2021. ISBN 978-92-4-003078-7.

論文内容

WHO精液検査マニュアル第6版では、精液検査を基本検査(basic examination)、拡張検査(extended examination)、高度検査(advanced examination)の三種類に分類しています。精子DNA断片化検査は拡張検査に、酸化ストレステストは高度検査に位置づけられました。
精子のDNA損傷は、DNAの正常構造が化学的に変化することと定義されます。精子DNA断片化は、一本鎖または二本鎖の切断という形で遺伝子に障害を与える一般的な指標となります。精子DNA断片化は様々なプロセスによって引き起こされ、アポトーシス、酸化ストレス、精巣内の熱ストレス、環境毒素への曝露、精巣上体での精子成熟の障害などが関与しています。
精子DNA断片化が増加すると、受精能力に異常がなくても、自然妊娠においても体外受精においても、受精後の胚の発育、着床、妊娠に影響を与える可能性があることが複数の研究で報告されています。精子DNA断片化は通常の精液所見が悪い男性では多くみられることが知られていますが、精液所見が正常範囲内であっても精子DNA断片化だけが高値を示す場合があり、新しい評価指標として注目されています。

精子クロマチン中のDNA断片化を評価する方法として、複数の手法が臨床応用されています。主な方法としてTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling)法、コメットアッセイ(Comet assay)法、アクリジンオレンジを用いたフローサイトメトリー(acridine orange flow cytometry)法、精子クロマチン分散試験(sperm chromatin dispersion test, SCD)法などがあります。コメットアッセイ法以外は精度・感度ともに良好であるとされています。
第6版では精子DNA断片化検査の基準値を定めておらず、各検査室が適切なコントロールに基づいて独自の基準範囲を設定することを推奨しています。これは、検査方法の多様性、標準化の困難さ、および臨床的カットオフ値に関するコンセンサスが確立されていないことによるものです。

私見

当院で行っている「精子クロマチン分散試験」についても説明されています。
精子DNAの酸変性に対する感受性を評価する光学顕微鏡法である。精子クロマチン分散試験は、酸変性と核タンパク質を取り除いたあと、ダメージのない DNA ループは拡張し、ダメージのあるDNA ループは拡張が小さいか起こらないという原理にもとづいています。このDNAループの拡張がHaloとして認識され、Fernándezらの基準に従って分類していきます。(Jose Luis Fernández, et al. J Androl. 2003)

– 大:Haloの大きさが精子核の直径と同程度かそれ以上のもの
– 中:Haloの大きさが「大」と「小」の間
– 小:Haloの大きさが精子核の直径と1/3以下
– Haloなし
– Without Halo-degraded: Haloがなく精子核も不規則もしくは弱くしか染色されないもの

WHO第6版が基準値を設定しなかった背景には、検査方法間の相関性の問題、施設間での変動、カットオフ値設定の困難さなどがあると考えられます。しかしながら、通常の精液検査では説明できない不妊症例や、反復流産、反復着床不全の症例において、精子DNA断片化検査は有用な情報を提供する可能性があります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 精子DNA損傷検査

# 精液検査

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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