体外受精

2021.02.01

卵巣刺激低反応患者の新しい層別化基準:Bologna基準からPOSEIDON基準へ(Fertil Steril. 2016; Hum Reprod. 2011)

はじめに

卵巣刺激に対する反応が不良な患者(POR:poor ovarian response)の管理は、生殖補助医療における最も困難な臨床課題の一つです。2011年にESHREが提唱したBologna基準により、PORの定義は標準化されましたが、この基準では年齢や卵巣予備能が異なる患者が同一のカテゴリーに含まれるという問題点が指摘されていました。2016年、POSEIDON(Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)グループは、「卵巣刺激低反応」から「低予後」という概念への転換を提唱し、より詳細な層別化基準を発表しました。今回は、これら二つの重要な基準を比較検討し、臨床的意義について考察します。

ポイント

Bologna基準の問題点を解決するため、POSEIDON基準は年齢と卵巣予備能を組み合わせた4群分類を提案し、個別化治療と正倍数性胚獲得を目標とした新しい低予後概念を確立しました。

引用文献

Bologna基準:
Ferraretti AP, et al. Hum Reprod. 2011;26(7):1616-1624. doi: 10.1093/humrep/der092.

POSEIDON基準:
Alviggi C, et al. Fertil Steril. 2016;105(6):1452-1453. doi: 10.1016/j.fertnstert.2016.02.005.

論文内容

Bologna基準(2011年)について

卵巣刺激に対するPORの定義を標準化し、臨床試験における患者選択基準を統一することを目的としました。
ESHREワーキンググループによるコンセンサス会議を開催し、PORの最小限の診断基準を策定しました。以下の3つの特徴のうち、少なくとも2つが存在する必要があります。(1)高齢(40歳以上)または他のPORリスク因子の存在、(2)過去のPOR(標準的な卵巣刺激で3個以下の採卵)、(3)異常な卵巣予備能検査(AFC 5~7個未満またはAMH 0.5~1.1 ng/mL未満)。最大刺激後に2回のPORエピソードがあれば、高齢や異常な卵巣予備能検査がなくてもPORと定義されます。

結果
この定義により、PORの標準化された診断基準が確立されました。定義上、PORは卵巣反応を指すため、診断には1回の卵巣刺激周期が必須です。ただし、高齢で異常な卵巣予備能検査を有する患者は、卵巣刺激周期の代用として「予測されるPOR」に分類できます。この定義を臨床試験の最小基準として統一的に採用することで、より均質な患者集団を対象とした試験が可能となり、結果の比較と信頼性の高い結論導出が期待されます。

POSEIDON基準(2016年)について

Bologna基準の弱みをカバーし、質的・量的パラメータを組み合わせた、より詳細な低予後患者の層別化基準を提案することを目的としました。
POSEIDON基準では、従来のPOR概念から「低予後」概念への転換を提案しました。新たに「準最適反応」(4~9個の採卵)と「低反応」(より高用量のゴナドトロピンとより長期の刺激が必要)という2つのカテゴリーを導入しました。また、年齢(予測される異数体率)と卵巣予備能マーカー(AMH、AFC)を組み合わせた4群分類を提案しました。

Group 1:35歳未満で十分な卵巣予備能(AFC≧5、AMH≧1.2 ng/mL)を有するが、予期しないPORまたは準最適反応を示した患者。
Subgroup 1a:4個未満の採卵、Subgroup 1b:4~9個の採卵。

Group 2:35歳以上で十分な卵巣予備能(AFC≧5、AMH≧1.2 ng/mL)を有するが、予期しないPORまたは準最適反応を示した患者。
Subgroup 2a:4個未満の採卵、Subgroup 2b:4~9個の採卵。

Group 3:35歳未満で卵巣予備能低下(AFC<5、AMH<1.2 ng/mL)を有する患者。

Group 4:35歳以上で卵巣予備能低下(AFC<5、AMH<1.2 ng/mL)を有する患者。

結果
この層別化により、各患者グループに対する個別化治療プロトコルの設定が可能となりました。具体的には、GnRHアナログレジメンの選択、ゴナドトロピンおよびその受容体の多型検出、FSH開始用量の調整、ゴナドトロピン用量の個別化(FSH単独療法またはLH含有製剤)、卵子・胚の蓄積を含む特殊なレジメンの評価などが可能です。新しい治療成功の指標として、「各患者において少なくとも1つの正倍数性胚を移植するために必要な卵子数を回収する能力」が提案されました。

私見

Bologna基準は、POR定義の標準化という点で画期的でしたが、いくつかの問題点が指摘されてきました。最も重要な課題は、生物学的特性が大きく異なる女性を同一カテゴリーに含めてしまう点です。
POSEIDON基準の最大の利点は、年齢関連の胚・胚盤胞異数体率と外因性ゴナドトロピンに対する卵巣の「感受性」を考慮した点です。
Bologna基準は研究における患者選択の標準化に貢献し、POSEIDON基準は臨床における個別化治療の実践に適した基準といえます。両者は相補的な関係にあり、臨床現場では患者の状況に応じて適切に使い分けることが推奨されます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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