プレコンセプションケア

2026.01.30

妊娠中のベンゾジアゼピン使用と妊娠転帰リスク(JAMA Intern Med. 2025)

はじめに

ベンゾジアゼピン系薬剤は胎盤を通過し、黄体および胎盤のトランスロケータープロテインに結合してプロゲステロン合成を障害し、胎児成長と神経発達などに影響を及ぼす可能性があるとされていました。当初、口唇口蓋裂との関連性が指摘されていた時期もありますが、最近のメタアナリシスでは有意差がみとめられていません。分娩直前に関しては、Floppy infant syndromeに気をつけないといけませんが、比較的妊娠中も使用されている薬剤の一つではあります。今回、競合事象を考慮した台湾の全国データベースを用いたコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

妊娠中のベンゾジアゼピン系薬剤使用は、競合事象を考慮した解析において、早産リスク増加、SGA児リスク増加の可能性がありますが、絶対リスクは低い値でした。

引用文献

Li BMH, et al. JAMA Intern Med. 2025. doi:10.1001/jamainternmed.2025.6882.

論文内容

台湾の国民健康保険研究データベースを用い、2011年1月1日から2021年12月31日までのデータから、妊娠0週から36週までの一連のランダム化比較試験をエミュレートした研究です。各試験の適格基準には、妊娠0週から36週の妊娠、母体年齢15歳から55歳、過去6ヶ月間のベンゾジアゼピン系薬剤使用歴なしが含まれました。データは2024年11月から2025年4月に解析されました。ベンゾジアゼピン系薬剤使用群(59,521妊娠)および非使用群(394,956妊娠)の平均年齢(SD)は、それぞれ31.9(5.8)歳と31.6(5.3)歳でした。主要評価項目は流産(自然流産および人工流産)、死産、早産、SGA児としました。RRは一連の試験全体で推定されました。潜在的な競合事象(流産または死産)に対処するため、すべての妊娠における治療後の予後因子を組み込んだ安定化逆確率打ち切り重み付けを適用しました。解析は妊娠期間別に層別化しました:第1三半期(0〜13週)、第2三半期(14〜26週)、第3三半期(27〜36週)。

結果

ベンゾジアゼピン系薬剤使用は流産リスク増加と関連していました(RR、1.58; 95%CI、1.50〜1.66)。自然流産(RR、1.65; 95%CI、1.55〜1.76)、人工流産(RR、1.83; 95%CI、1.70〜1.98)も増加しましたが、死産との関連は認められませんでした(RR、0.96; 95%CI、0.78〜1.17)。競合リスクを考慮した後、ベンゾジアゼピン系薬剤使用は早産リスク増加(RR、1.20; 95%CI、1.18〜1.23)およびSGA児リスク増加(RR、1.06; 95%CI、1.00〜1.09)と関連し、特に第2三半期での曝露後により顕著な影響が観察されました。
絶対リスクとして、ベンゾジアゼピン系薬剤使用により自然流産は1000妊娠あたりわずか2.2件の増加(非使用群3.8件から使用群6.0件へ)、早産は1000妊娠あたり10.6件の増加(非使用群226.4件から使用群237.0件へ)でした。NNH(number needed to harm)は自然流産で455、早産で94、人工流産で909であり、多数の妊婦が使用しても1人が有害事象を経験する程度の低い絶対リスクでした。

私見

妊娠中に薬剤使用は有益に使うことが重要です。プレコンセプションケアではベンゾジアゼピン薬剤を精神療法、他剤への切り替え、減量や中止することを試みることが可能ですが、妊娠してからは難しいですよね。
それも踏まえても今回の論文は学ぶことが多いです。
不安症、不眠症、うつ病、統合失調症、双極性障害などの精神疾患の有無で層別化したサブグループ解析を実施しました。精神疾患を持つ群と持たない群で、ベンゾジアゼピン系薬剤使用と妊娠転帰の関連性に差はありませんでした。このことから、観察されたリスク増加は、基礎にある精神疾患そのものよりも、ベンゾジアゼピン系薬剤使用自体に起因する可能性が示唆されます。
先行研究においても、妊娠中のベンゾジアゼピン系薬剤使用と早産リスク増加の関連が報告されています(Grigoriadis S, et al. Can J Psychiatry. 2020; Huitfeldt A, et al. JAMA Netw Open. 2020)。また、自然流産や人工流産のリスク増加も報告されています(Sheehy O, et al. JAMA Psychiatry. 2019; Meng LC, et al. JAMA Psychiatry. 2024)。一方、死産との関連については一貫して否定的です(Meng LC, et al. Lancet Psychiatry. 2023)。SGA児に関しては、本研究を含め、エビデンスは一貫性に欠け、効果量も小さいとされています。
なお、この論文読むまで聞き慣れなかった語句は以下の二つですが、生殖医療分野では必要な概念だなーと思って読んでいました。

・NNH (number needed to harm)について:
何人の妊婦がベンゾジアゼピン系薬剤を使用すると、1人が追加的に有害事象を経験するかを示す指標です。例えばNNH=94(早産)の場合、94人が使用して初めて1人が追加的に早産となる程度の低い絶対リスクを意味します。

・競合事象について:
関心のあるアウトカムの発生を永久に妨げる別の事象のことです。本研究では、妊娠初期に流産や死産が起こると、その後の早産やSGA児という転帰は絶対に起こり得なくなるため、流産・死産が早産・SGA児の「競合事象」となります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 周産期合併症

# 影響する薬剤など

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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