研究の紹介
参考文献
生殖能評価を受けた男性の親族における死亡リスク
Risk of mortality in family members of men seeking fertility assessment
Ramsay JM, et al., Fertil Steril. 2025 Dec;124(6):1235-1244. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.07.016. PMID: 40675242.
はじめに
これまで本コラムでは、父親の健康状態が男性の生殖機能にとどまらず、妊娠経過や子どもの健康にも深く関係していることを紹介してきました。また、不妊男性では、死亡率リスクが高いこと、遺伝性がんに関連する遺伝子変異の保因者頻度が高いことが報告されており、男性の生殖機能が将来の健康リスクを反映する指標となりうる点についても取り上げてきました。
こうした知見から、男性の生殖機能は「本人だけの問題」ではなく、次世代や家族全体の健康とつながる可能性があることが次第に明らかになってきています。では、その影響はどこまで広がるのでしょうか。
今回紹介する論文では、生殖機能の評価を受けた男性本人ではなく、血縁関係にある家族の死亡リスクに焦点を当て、大規模な家系データを用いて検討が行われました。男性の生殖機能が、親族の健康を読み解く新たな手がかりとなる可能性を示した、非常に示唆に富む研究です。
*本コラム中の“親族”は血縁親族(第一度〜第三度)を指します。
研究のポイント
生殖機能の評価を受けた男性のうち、乏精子症や無精子症の男性の親族では、全死亡および死因別死亡リスクが上昇していました。
特に第一度・第二度近親者でリスク上昇が顕著で、心血管疾患や先天異常などが関連していました。
男性不妊は本人だけでなく親族全体の健康状態を反映する指標となりうることが示唆されました。
研究の要旨
目的
生殖機能の評価を受けた男性の親族における死亡リスクを評価することを目的としました。男性のサブファーティリティは全身の健康状態を示すバイオマーカーと考えられており、精液所見の不良は慢性疾患による入院や死亡リスクの増加と関連します。しかし、これらのリスクが精子数の少ない男性の家族にも及ぶかどうかは明らかではありませんでした。
研究デザイン
後ろ向きコホート研究です。
対象
1996~2017年に男性の生殖機能の評価の一環として精液検査を受けた男性を含むSHAREコホートに登録された男性の、第三度近親者までの血縁関係の親族を対象としました[親・兄弟姉妹・子(第一度)、祖父母・おじおば・甥姪(第二度)、いとこなど(第三度)]。ユタ州に1年以上居住し、総精子数が記録されている男性の親族22,280家系を解析対象としました。
曝露因子
個人は親族単位で分類しました。親族は、無精子症(0M)、乏精子症(<39M)、正常精子数(≥39M)の男性の親族として分類しました。また、不妊評価を受けた男性の平均総精子数を連続変数として解析に含めました。
主要評価項目
主要評価項目は、性別、年齢、血縁の程度(第一度、第二度、第三度)別にみた全死亡および死因別死亡リスクとしました。Cox比例ハザードモデルを用い、性別、人種・民族、出生年で調整しました。
結果
生殖機能の評価を受けた男性の親族666,437人(死亡183,974人)を解析しました。
正常精子数の男性の親族と比較して、乏精子症男性の親族では全死亡リスクが有意に上昇していました(HR 1.03、95%CI 1.01–1.05)。
無精子症および乏精子症男性の第一度および第二度近親者では、全死亡および死因別死亡リスクが最も高く、心血管疾患や先天異常による死亡リスクの上昇が認められました。
結論
本研究の結果から、親族における全死亡および死因別死亡リスクは、男性の生殖能表現型によって異なることが示されました。無精子症および乏精子症男性の親族では、特に近親者で死亡リスクが有意に高いことが明らかになりました。これらの結果は、生殖機能と全身の健康に共通して影響する遺伝的または環境因子の存在を示唆するものです。
| 項目 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 家系数(n) | 22,280 | |
| 血縁者数(n) | 666,437 | |
| 死亡数(n) | 183,974 | |
| 乏精子症親族:全死亡HR | 1.03 (95%CI 1.01–1.05) | 正常精子数家族が対照群 |
| 乏精子症:第一度近親者 全死亡HR | 1.17 (1.07–1.28) | |
| 乏精子症:第二度近親者 全死亡HR | 1.05 (1.01–1.09) | |
| 無精子症家族:全死亡HR | 1.04 (0.99–1.09) | 有意差なし |
| 無精子症:第二度近親者 全死亡HR | 1.11 (1.04–1.20) |
HR, hazard ratio. 95%CI, 95%信頼区間.
私見と解説
男性の生殖機能、とくに精子数の低下は、これまで「本人の将来的な全身健康リスク」と関連しうる指標として注目されてきました。本研究はその視点をさらに広げ、生殖機能の評価を受けた男性“本人”ではなく、血縁家族の死亡リスクに焦点を当てた点が特徴です。解析の結果、正常精子数の男性の親族と比べて、乏精子症男性の親族では全死亡リスクが有意に上昇し、第一度・第二度近親者でリスク上昇が目立つことが示されました。死因別でも心血管疾患や先天異常など複数のカテゴリーで上昇が報告されています。
「近い血縁ほど影響が強い」という所見は、単に同居や生活習慣が似ているだけでは説明しきれない可能性があり、著者らは共有される遺伝的要因や環境要因が、生殖機能と全身の健康の双方に影響するという仮説を支持する結果として位置づけています。さらに精子数を連続変数として扱う解析では、精子数が少ない領域で親族の死亡リスクが高く、精子数の増加に伴いリスクが低下する傾向が示され、「カテゴリー差」だけでなく「連続的な関係」も示唆されました。
無精子症で影響が小さく見える点については、無精子症群の規模が小さく有意差が出にくいこと、原因が多様であるにもかかわらず原因別に層別化していないことが背景として考えられます。とはいえ本研究だけで親族に特定の検査やスクリーニングを一律に勧める段階ではありません。臨床では、家族歴の再確認を丁寧に行い、家族単位で取り組める禁煙、体重管理、運動、睡眠など生活習慣の改善を後押しする――その入口として精液所見を位置づけることが現実的だと考えます。加えて、乏精子症などの結果が出た場合には、妊孕性の説明にとどめず、血圧や代謝(糖・脂質)といった一般健診の確認、必要に応じた内科受診につなげることで、将来の疾病予防に役立つ可能性があります。ただし不安を煽らない配慮が重要で、「リスクがあるかもしれないので一緒に整える」という姿勢が望まれます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。