はじめに
経腟超音波下卵胞穿刺は、現在、生殖補助医療における採卵の標準的手法とされています。採卵時の卵子回収率を最大化する目的で、ダブルルーメン針を用いた卵胞フラッシング(卵胞洗浄)という手技が導入されてきました。一部の施設では全例にルーチンで行われ、また別の施設では卵巣刺激に対する反応不良患者に選択的に使用されています。初期の非ランダム化研究では卵胞フラッシングが卵子回収数を増加させると報告されましたが、その後のランダム化比較試験では卵子回収数の改善は認められず、むしろ処置時間が約10分延長することが示されました。今回、採卵時の卵胞フラッシングが出生率や他の生殖補助医療アウトカムに与える影響を評価した系統的レビューとメタアナリシスをご紹介いたします。
ポイント
卵胞フラッシングは処置時間を延長させますが、出生率や妊娠率、卵子回収数を改善しません。ランダム化データは生殖補助医療における卵胞フラッシングの使用を支持していません。
引用文献
Martini AE, et al. Fertil Steril. 2021 Apr;115(4):974-83. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.064.
論文内容
採卵時の卵胞フラッシングが出生率や生殖補助医療の二次的アウトカムを改善するかを検討することを目的とした系統的レビューとメタアナリシスです。PubMed、EMBASE、Cochrane Database、Web of Scienceを用いて、1989年から2020年の間に英語で発表された、採卵時の卵胞フラッシングと直接吸引を比較したランダム化比較試験を系統的に検索しました。主要評価項目は出生率、副次評価項目は臨床妊娠、継続妊娠、回収された総卵子数と成熟MII卵子数、処置時間としました。自家配偶子を用いて生殖補助医療を受ける女性を対象としました。
結果
合計1,178症例を含む11の研究が組み入れられました。卵胞フラッシングと直接吸引の間で出生率に差は認められませんでした(RR 1.03、95%CI 0.79-1.34、P=0.93)。臨床妊娠(RR 1.04、95%CI 0.77-1.40、P=0.81)と継続妊娠(RR 1.08、95%CI 0.75-1.57、P=0.67)も卵胞フラッシングで改善しませんでした。総卵子回収数(MD -0.59、95%CI -0.95~-0.23、P=0.001)とMII卵子回収数(MD -0.36、95%CI -0.71~-0.01、P=0.04)は、卵胞フラッシング群で直接吸引群と比較して低い結果でした。処置時間は卵胞フラッシングにより、反応不良患者で2分、正常反応患者で9分延長しました(MD 4.10、95%CI 2.54-5.66、P<0.00001)。他の感度分析では変化は認められませんでしたが、MII卵子回収数の差は統計学的に有意でなくなりました。反応不良患者のみを対象とした感度分析(5研究、490患者)でも、卵胞フラッシングは臨床妊娠(RR 0.36、95%CI 0.05-2.58、P=0.31)、継続妊娠(RR 0.50、95%CI 0.15-1.64、P=0.25)、出生率(RR 0.97、95%CI 0.55-1.71、P=0.92)を改善しませんでした。数や臨床妊娠および妊娠継続率、回収卵子および回収成熟卵子数を改善しません。
私見
2012年に発表されたメタアナリシスにつづき、卵胞フラッシング法による改修卵子数の改善は見られず、処置時間が増加するという結果になりました。今回のメタアナリシスでは、その時より5つの追加試験が発表され1,178人の患者を対象とすることができ、出生率まで比較することが可能になりました。
今回の結果は2018年のコクラン・レビューとも一致します。
私たちも発育卵胞数が多い患者様では持続吸引法、少ない患者様でフラッシング法をおこなっています。今回のメタアナリシスでもpoor responderのフラッシングは否定されましたが、私たちは一定患者には有効と考えておりますので、フラッシングが卵子の質を低下させるというネガティブな発信がない限り継続を検討しているところです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。