不育症

2021.02.16

EAGeR試験(妊娠前低用量アスピリン療法)とは?

はじめに

反復流産患者に無作為にアスピリンを使用するのは出生率を改善しないと2009年のコクランレビューで記載されています。アスピリンは胚移植のときにルーチン使用されることが多く、これらを支持する論文もありますが、現段階では否定的な意見が多いのではないでしょうか。ただし、抗リン脂質抗体症候群や先天性凝固異常がなくても一部の症例に関してはアスピリンを使用した方が良い結果に至ったことを臨床医は少なからず経験しており、様々な角度から論文がでています。  
低用量アスピリン療法は流産を繰り返す人に効果がある?( Ann Intern Med. 2021) 
で紹介した元論文を取りあげたいと思います。 

ポイント

妊娠前の低用量アスピリン療法は、1年以内に妊娠20週未満で1回の流産を経験した女性では、妊娠反応陽性率と出生率が約10%増加する可能性がありますが、反復流産全体では明確な効果は認められませんでした。 

引用文献

Enrique F. Schisterman et al. Lancet. 2014 DOI:10.1016/S0140-6736(14)60157-4.  
Enrique F Schisterman et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015. DOI: 10.1210/jc.2014-4179. 

論文内容

① Enrique F. Schisterman et al. Lancet. 2014 DOI:10.1016/S0140-6736(14)60157-4.  
1~2回の流産歴のある女性を対象に、低用量アスピリン投与(LDA)が出生率を改善するかどうかを検討することで2006~2012年に米国で実施された多施設共同ブロックランダム化二重盲検プラセボ対照試験が実施されました。(EAGeR試験) 過去1年間に妊娠20週未満で流産の既往歴が1回のみで、過去1回までの生児出産、1回までの選択的中絶・子宮外妊娠、過去12ヵ月間に21~42日の定期的な月経周期、不妊歴なし、18~40歳の女性で積極的に妊娠希望ある女性を対象としました。 症例が集まらず、上記を「original」とし「expanded」として妊娠20週以上の女性、登録の1年以上前に流産を経験した女性、2回までの出産経験のある女性を含め、1回または2回の流産を経験した女性に拡大されました。 女性は、ブロックランダム化されました(LDA615例、プラセボ613例)。妊娠前にLDA(81mg/日)を1日1回投与し、最大6回の月経周期までプラセボと比較しました。一次評価項目は生児出産としました。副次的評価項目として、着床(尿妊娠検査陽性)、妊娠確認(超音波検査での確認)、流産(妊娠20週未満)、出生体重、および産科的合併症が含まれました。合併症には、常位胎盤早期剥離、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症、早産(<37週)を検討しました。 結果 1078人の女性(LDA535人、プラセボ543人)が参加し、出生率はLDA投与群の58%(309/535)とプラセボ群の53%(286/543;リスク差[RD]5%;95%信頼区間[CI] 0.8-11)でした。流産率は群間でほぼ同程度でした(LDA13%[68/535]、プラセボ12%[65/543];p=0.7812)。当初の治療群では、出生率は62%(151/242)LDA対53%(133/250)プラセボ(RD 9%;95%CI 0.5-18)であり、拡張群では、54%(158/293)LDA対52%(153/293)プラセボでした。重大な有害事象は、治療群間でほぼ同程度でした。LDAは膣出血の増加と関連していましたが、流産とは関連していませんでした。 LDAは、過去に1~2回の流産を経験した女性において、出生数または妊娠喪失と有意な関連はありませんでした。しかし、1年以内に妊娠20週未満で1回の流産を経験した女性では、より高い出生率が観察されました。 要約すると、妊娠前に開始されたLDAは、1~2回の流産を経験した女性における出生数の増加や流産の減少とは関連していませんでした。しかし、過去1年以内に1回の妊娠20週未満の流産を経験した女性において、妊娠反応陽性率と出生率の10%程度の増加と関連していました。LDAの低コスト、入手可能性、安全性を考慮すると検討の余地が議論に値しますが、あくまで流産率を減少させたり、出生率を増加させたりするためのLDAの一般的な使用を支持するものではありません。 

次に同じグループが追加で論文を報告しています。こちらは低用量アスピリン療法について少し肯定的に書かれています。 

② Enrique F Schisterman et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015. DOI: 10.1210/jc.2014-4179.  
尿中妊娠陽性、臨床妊娠が確認されるまでの時間を測定し、intention-to-treat分析を行ったところ、LDA(n = 615)またはプラセボ(n = 613)の女性のうち、LDA群では410人(67%)の女性が妊娠したのに対し、プラセボ群では382人(63%)でした。 妊娠可能性オッズ比(FOR)は1.14(95%CI:0.97-1.33)でしたが、original層(n = 541)の女性では、LDAはプラセボと比較して妊娠可能性の増加と関連していました(FOR:1.28;95%CI:1.02-1.62)。妊娠前にLDAを投与した場合、1~2回の流産歴のある女性では14%、前年に妊娠20週未満の流産歴が1回しかない女性では28%の有意な妊娠率の増加が見られました。 

私見

この論文は妊娠前からのアスピリン投与は妊娠反応陽性、出生率の増加は一部の症例で認めそうだけどグレーという結論でした。私たちはアスピリンをルーチンでは使用しておりませんが、様々な着床不全・不育症の原因精査で良い結果に導けない場合は検討してもよいのかもしれません。彼らの論文ではLDAは妊娠中経過、胎児/新生児のいずれにおいても、主要な有害事象の増加とは関連していないことが明らかになりました。 他の大規模の臨床試験でも1日150mgまでの内服で胎児の有害な後遺症の増加は示されていません。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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