
はじめに
子宮内膜症の発症に微生物の関与が示唆されており、特にFusobacterium nucleatumという嫌気性グラム陰性菌が注目されています。日本からのMuraokaらの先行研究(Sci Transl Med. 2023)では、卵巣子宮内膜症患者の正所性子宮内膜の64%にFusobacteriumが検出され、対照群では7%のみであったと報告されています。本研究は、minimal-mildからmoderate-severe子宮内膜症患者の正所性子宮内膜におけるFusobacterium属およびF. nucleatumの存在を、定量的PCRを用いて検証したものです。
ポイント
子宮内膜症患者の正所性子宮内膜において、Fusobacterium属およびF. nucleatumの存在は対照群と比較して有意差を認めませんでした。
引用文献
María Carmen Graciano-España, et al. Fertil Steril. 2025 Nov;124(5P2):1071-81. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.035.
論文内容
子宮内膜症女性の正所性子宮内膜におけるFusobacterium属およびF. nucleatumの存在を評価し、疾患との関連性を検討することを目的としたレトロスペクティブケースコントロール研究です。
対象は、2016年7月から2019年8月にペンシルバニア大学を含む5施設で婦人科内視鏡手術を受けた18~44歳の女性92名(子宮内膜症患者55名、対照群37名)でした。子宮内膜症患者は、rASRM分類に基づいてminimal-mild disease(MMD、n=42)とmoderate-severe disease(MSD、n=13)に分類されました。対照群は、子宮筋腫、卵巣嚢腫、月経過多、慢性骨盤痛などの良性疾患で手術を受けた女性でした。
正所性子宮内膜検体からQIAamp DNA MicrobiomeキットおよびIndiSpin Pathogen Kitを用いてDNAを抽出しました。Fusobacterium属およびF. nucleatumの定量は、属特異的および種特異的プライマーを用いた定量的PCRで実施し、ΔCt法により相対存在量を算出しました。
結果
属レベルでの検討では、40検体(子宮内膜症20例、対照20例)を解析しました。Fusobacterium属の検出は、子宮内膜症群で2例、対照群で3例のみに陽性でした。平均相対値は、対照群で703.5±2,214、子宮内膜症群で728.0±3,227であり、両群間に有意差は認められませんでした(P=0.698)。
種特異的検討では、全92検体(子宮内膜症55例、対照37例)を解析しました。F. nucleatumの平均相対存在量は、子宮内膜症群で0.3951±0.9897、対照群で0.1914±0.2942であり、有意差は認められませんでした(P=0.738)。Fusobacterium属レベルでも、子宮内膜症群0.0011±0.0023、対照群0.0016±0.0053で有意差はありませんでした(P=0.258)。
疾患重症度別のサブグループ解析では、MMD群とMSD群の間でFusobacterium属(P=0.1465)およびF. nucleatum(P=0.2936)のいずれにおいても有意差は認められませんでした。
私見
先行研究であるMuraokaらの報告(Sci Transl Med. 2023)と異なる結果となりましたが、患者背景、疾患重症度、検体種類、検体処理とDNA抽出法の違い、月経周期の影響などからおこっている可能性があります。
子宮内膜症は多因子性疾患であり、細菌感染も原因のひとつかもしれませんが、抗生剤治療を含めた臨床応用に至るかどうかは今後の課題かと思います。マウスではメトロニダゾールを含む広域抗菌薬が子宮内膜症病変の成長を抑制したとの報告があります(Chadchan SB, et al. Hum Reprod. 2019)。しかし、ヒトでは、子宮内膜症術後疼痛に対するメトロニダゾールの疼痛効果はないことが示されています(Am J Obstet Gynecol. 2025)。https://wfc-mom.jp/blog/post_1442/
私はどうしても、不妊治療との兼ね合いでみてしまうのですが、現在のところF. nucleatumが反復着床不全や不育症に関連性が高いという報告があるわけではなさそうです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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