男性不妊

2024.10.12

米国の泌尿器科学会と生殖医学会の男性不妊症ガイドラインが更新されました(1)ーその概要について

ガイドラインの紹介

男性不妊症のアップデート:AUA/ASRMガイドライン(2024年)
Updates to Male Infertility: AUA/ASRM Guideline (2024)

Brannigan RE, 他. J Urol. 2024 Aug 15:101097JU0000000000004180. doi: 10.1097/JU.0000000000004180. PMID: 39145501.

2021年に米国泌尿器科学会と米国生殖医学会から男性不妊症のガイドラインが診断と治療に分けて出版され、当施設のブログでもすでに川井院長が紹介しています(下記*)。
まだ出て間もないガイドラインなのですが、2020年以降の論文から得られた知見に基づいたアップデート版が公表されました。

*2021年版を紹介したブログ
男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):治療フロー・評価方法(2020年12月14日)、診断/イメージング(2020年12月15日)、手術(2020年12月16日)、手術以外の介入(2020年12月17日)、性腺毒性(2020年12月18日)

更新の概要

2023年、米国泌尿器科学会(AUA)は、本ガイドラインの2020年公表以降に得られた新たなエビデンスを取り入れるために、文献レビューの更新を要請しました。その結果を得て、2024年ガイドライン改訂版では、不妊カップルの男性パートナーの適切な評価と管理に関する指針を提供するために、推奨事項の更新を行っています。

対象と方法

2023年の男性不妊症ガイドライン更新にあたって、新たに発表された文献をレビューし、その内容を既に発表されているガイドラインに統合しました。文献検索により、新たに4093件の抄録が同定され、スクリーニングの結果、125の研究が適格基準を満たしました。さらなるデータ抽出の結果、22の研究が最終的なエビデンスとして採用され、ガイドラインの改訂に反映されました。 

男性不妊症の評価と管理に関する指針を提供するため、最新のレビューに基づいて、エビデンスとコンセンサスに基づいた提言(ステートメント)を作成しました。これらの提言の最新情報は次回以降ご紹介します。 

本ガイドラインでの更新内容は主に以下のようなものがあります。 

  • 無精子症症例の評価に関する勧告の更新 
  • 遺伝学的検査に関する推奨事項の更新 
  • 患者を評価する際にどのような画像診断を用いるべきか、あるいは用いるべきでないかに関する最新情報 
  • 非無精子症患者における精巣精子の使用に関する新たな推奨 
  • 精液検査における一般的な用語を定義した新しい表の提示(表1) 
  • 精液検査所見に関するWHO基準範囲の提示(表2) 

この分野における診断と治療の選択肢は進化し続けているので、さらなる見直しが必要であろうとしています。 

表 1. 精液検査における一般的な用語 
用語 (日本で用いられている用語、*日本泌尿器科学会用語集より)定義
Aspermia (無精液症*、無精液*)射精において精液が完全にないことで、精路内で精液が生成されていないか、または閉塞していることを示す。
Azoospermia (無精子症*)精液中に精子が存在しない状態。典型的には、精路管の閉塞(閉塞性無精子症)または精子形成の不全(非閉塞性無精子症)に起因する。
Oligozoospermia (乏精子症*、乏精子*)精液中の精子濃度が低い。
Asthenozoospermia (精子無力症*)精子の運動性の低下。精子のかなりの部分が動きが鈍いか、異常な動きを示し、受胎可能性に影響を与える。
Teratozoospermia (奇形精子症*)精子の形態異常。形態異常のある精子の割合が高いことが特徴で、生殖能力に影響を及ぼす可能性がある。
Normozoospermia (正常精液)精子濃度、運動率、精子形態、精液量などの精液パラメータが正常であり、最適な受胎の可能性を示す。
Retrograde Ejaculation (逆行性射精*) 射精時に精液が尿道から排出されずに膀胱内に逆流する疾患で、生殖機能の低下につながる。
表 2. 世界保健機関(WHO第6版)のヒト精液検査所見の基準値
精液のパラメータ(日本で用いられている用語)下限基準値(片側)
5パーセンタイル(95%信頼区間)
Semen Volume(精液量)1.4 mL (1.3-1.5 mL)
Total Sperm Number(総精子数)39×106 (35-40 x106)
Sperm Concentration(精子濃度)16×106/mL (15-18 x106/mL)
Vitality(生存率)54% (50-56%)
Progressive Motility(前進運動率)30% (29-31%)
Total Motility [Progressive plus Non-Progressive(総運動率)]42% (40-43%)
Morphologically Normal Forms(正常形態率)4.0% (3.9-4.0%)

筆者のコメント

精液所見のWHOラボマニュアル(第6版)の基準値、および精液検査における用語についての表を日本語にして掲載しました(表1と2)。これらは、生殖医療の必修知識(2023)やEAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health 2023(欧州泌尿器科学会のガイドライン)には掲載されています。一方で、日本の生殖医療ガイドライン(2021)や、男性不妊症診療ガイドライン(2024)には明確に示されていないので、米国のガイドラインにも掲載されたということはとても重要だと思われます。2021年に出版されたAUA/ASRMの男性不妊のガイドラインでは乏精子症について”oligospermia”と”oligozoospermia”が混在して使用されていましたので、明確にされて良かったと思います。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 染色体

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# 無精子

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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