体外受精

2026.03.30

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

はじめに

生殖補助医療成績向上のために、子宮内膜スクラッチ、ヒアルロン酸含有移植培地、G-CSF投与など多くの試みが行われてきました。SEET法(stimulation of endometrial embryo transfer)は2007年にGotoらが報告した方法で、胚培養上清を胚移植前に子宮腔内に注入することで、胚と子宮内膜のクロストークを促進し着床率・妊娠率を向上させるとされ、日本で広く用いられていますし、先進医療にも認定されています(https://wfc-mom.jp/kameda-ivf-makuhari/treatments/aft-list/seet/)。しかし、これまでのRCTはいずれもサンプルサイズが小さく、メタアナリシスでもART成績に対する有意な効果は示されていません。今回、大規模な凍結融解胚移植周期でSEET法の効果を検討した後方視的研究をご紹介いたします。

ポイント

SEET法は凍結融解胚移植における着床・妊娠の改善効果はなく、特に37歳以上の女性では流産リスクを有意に増加させる可能性があります。

引用文献

Ito A, et al. Sci Rep. 2025;15:10912. doi: 10.1038/s41598-025-96138-9.

論文内容

凍結融解胚移植(FET)周期におけるSEET法がART成績に及ぼす影響を評価することを目的とした単施設後方視的コホート研究です。2017年1月から2022年3月に実施されたホルモン調整周期での5日目胚盤胞移植周期を対象としました。複数胚移植、ERA検査に基づく移植、PRP療法併用、PGT-A施行胚の移植周期は除外されました。SEET群(118周期)では胚移植の2〜3日前に融解した培養上清50 µLを子宮腔内に注入し、SEETなし群(878周期)と比較しました。

結果

SEET群ではSEETなし群と比較して母体年齢が有意に高値でした(中央値38歳 vs. 37歳、p<0.05)。BMIには有意差はありませんでした。AMH、移植日の子宮内膜厚、移植日のP4値、良好胚盤胞(GQB)率にも群間で有意差はありませんでした。着床率はSEET群40.2%に対しSEETなし群51.1%(p<0.05)、継続妊娠率はSEET群18.2%に対しSEETなし群26.8%(p<0.05)、出生率はSEET群18.2%に対しSEETなし群26.2%(p<0.05)と、いずれもSEET群で有意に低値でした。臨床妊娠率はSEET群35.6%に対しSEETなし群38.3%で有意差はありませんでした(p=0.55)。流産率はSEET群48.9%に対しSEETなし群31.5%で、SEET群が有意に高値でした(p<0.05)。移植9日後の血清E2値、P4値、hCG値には両群間で有意差はありませんでした。年齢調整後のORは、臨床妊娠についてはSEET群で1.02(95%CI 0.69–1.52)と有意差はありませんでした。一方、流産については年齢調整OR 1.97(95%CI 1.04–3.72)とSEET群で有意に高値でした。母体年齢別に層別化すると、37歳未満では流産の年齢調整ORは0.92(95%CI 0.33–2.58)でしたが、37歳以上では3.43(95%CI 1.40–8.44)と著明に高値でした。
多変量ロジスティック回帰分析では、臨床妊娠に対するSEET法のaORは1.00(95%CI 0.63–1.58)で有意差はありませんでした。流産に対するaORは2.08(95%CI 1.02–4.24)と有意に高値でした。37歳以上に限定するとaORは4.63(95%CI 1.61–13.3)とさらに高値でしたが、37歳未満ではaOR 0.732(95%CI 0.22–2.47)と有意差はありませんでした。

私見

SEET法は2007年にGotoらが報告し、培養上清の子宮内注入によって胚と子宮内膜のクロストークが促進され着床率が向上すると提唱され、初回ART症例においても同様の効果を報告しています(S. Goto, et al. Fertil Steril. 2007、S. Goto, et al. Fertil Steril. 2009)。
Tehraninejadらは、高グレード胚盤胞培養上清を用いたSEET法でICSI患者の妊娠率が改善したとRCTにて報告しています(E. S. Tehraninejad, et al. Arch Gynecol Obstet. 2012)。しかし、否定的な報告もあります。Kamathらは凍結融解胚盤胞移植におけるRCTで、培養上清注入群の着床率がむしろ有意に低く、カテーテル挿入とSEET液自体が着床に悪影響を与える可能性を指摘しました(M. S. Kamath, et al. J Assist Reprod Genet. 2015)。

2020年のCochrane Reviewでは、SEET法がART成績に有意な効果を示すエビデンスはないと結論づけています(C. S. Siristatidis, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020)。
そのうえで我々がどう考えるかです。
SEET液自体は着床をサポートする因子を多く含んでいる可能性がありますが、toxic facotrを含んでいる可能性もあります。またどの程度の濃度で効果があるのかもわかっていません。当院では実施を反復着床不全患者に限定し、あまり胚培養上清を小分けにしないことを行なっております。また、この論文が出た時点で当院データでも検証しましたが、SEETなし流産率が22.2%(671/3024)でありSEET実施流産率が25.7%(58/226)でした。一定頻度、反復着床不全の患者さまは救われている可能性もあるため症例を選んで今後とも実施していく予定です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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