
はじめに
融解後の胚盤胞は胞胚腔の水分が回収され再拡張しますが、この過程は膜透過性や浸透調節能を反映しており、生存性の重要な指標とされています。一方で、融解後に自発的な収縮(コラプス)が生じる場合があり、移植成績との関連が議論されてきました。本論文では、融解後の再拡張および収縮ダイナミクスの種類・程度・タイミングと着床率・出生率との関係を後方視的に解析した結果をご紹介いたします。
ポイント
融解後胚盤胞における強い収縮(>15%の体積縮小)は着床率・出生率を有意に低下させる一方、軽度収縮(ポンピング)や再拡張前収縮はむしろ孵化を促進し良好な結果と関連します。
引用文献
Conversa L, et al. Fertil Steril. 2025. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.10.013
論文内容
ガラス化凍結融解後の胚盤胞における融解後ダイナミクス、具体的には再拡張および収縮と着床率・出生率との関連を解析することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。スペイン・バレンシアのIVI Valenciaにて2022年2月から2024年5月の間に融解された846個のガラス化胚盤胞を対象としました。
主要評価指標は以下の4項目です。
融解後再拡張ダイナミクスとして、再拡張の開始・終了時刻、持続時間、速度、胚盤胞の初期・最終サイズ、透明帯(ZP)の厚さ・菲薄化速度などを計測しました。
収縮の種類とタイミングを以下のように定義しました。ガラス化凍結の際、胚盤胞は胞胚腔の水分が抜けてしぼんだ状態で凍結されます。融解後は水分を再吸収しながら再拡張していきますが、この過程で生じる収縮を「いつ起こるか」によって2種類に分類しました。「PRC(再拡張前収縮:Pre-Re-expansion Contraction)」は、融解直後・まだ再拡張が始まる前に一時的にキュッと縮む動きです。TEの細胞間隙が広がることへの生理的応答であり、凍結保護物質を排出して正常な細胞内環境を取り戻そうとする動きと解釈されます。一方、「MRC(再拡張中収縮:Mid-Re-expansion Contraction)」は、再拡張が始まった後に途中で再び縮む動きです。MRCはさらに縮小率(shrinkage)によって2種類に区別されます。体積の縮小が15%未満の軽微な収縮を「ポンピング(pumping)」と呼び、脈打つように胞胚腔内の液体を動かすことで孵化を助ける動きと考えられています。一方、15%を超える強い収縮を「コラプス(collapse)」と呼び、TEの細胞間密着結合の再形成が不完全であることを反映する、胚の機能回復不全のサインとして捉えられます。
3つ目の評価指標としてICM(内細胞塊)サイズ、4つ目として細胞質糸(Cytoplasmic Strings:CS)を評価しました。CSとは、将来胎児になるICMと、将来胎盤になるTE細胞の間に伸びる糸状の細胞質連絡構造のことです。ICMとTEをつなぐ「橋」のような存在で、栄養素やシグナルをやり取りするための通路として機能していると考えられています。タイムラプスシステムによって胚発育を連続観察できるようになって初めて発見された比較的新しい構造であり、本研究でもEmbryoViewerの描画ツールを用いて手動でアノテーションしています。さらに、AI胚評価ソフトウェア(Embryo Assess;Alife Health)を用いて凍結前・融解後第1画像・最終融解後画像を後方視的に解析し、従来形態評価(ASEBIRガイドライン)との関連も検討しました。移植前の黄体補充は膣坐薬プロゲステロン400mg(12時間毎)で行い、着床は妊娠8週の胎児心拍確認をもって判定しました。融解後>50%変性かつ再拡張なしの胚は生存不能と判定しました(n=21)。PGT-A実施群(n=140)はすべて補助孵化(AHA)済みかつ正倍数性確認済みです。
結果
846個の融解胚盤胞の生存率は97.5%であり、平均融解後培養時間は3.47±0.84時間でした。着床データが得られた移植胚(n=815)における陽性胎児心拍確認率は46.1%、出生率は40.3%(n=799)でした。
再拡張について、融解後に再拡張を開始しなかった胚は38個(4.5%)であり、そのうち22個(57.9%)が移植されましたが、着床率および出生率はいずれも18.2%と、再拡張した胚(着床率46.8%、P=.008;出生率40.9%、P=.032)に比べて有意に低値でした。再拡張速度の速さ、透明帯の薄さ、融解後最終胚盤胞サイズの大きさ、ICM面積の大きさは、いずれも良好な治療結果と正の相関を示しました。再拡張速度はOR 1.24(95%CI 1.12–1.36)で着床を、OR 1.44(95%CI 1.20–1.73)で出生を独立に予測しました。なお、透明帯菲薄化そのものはいずれの評価項目とも有意な相関を示しませんでした。
ICMサイズおよびCSについて、ICM直径(μm)は着床した胚盤胞で有意に大きく(2,252.75±760.95 vs. 2,113.88±677.08、P=.007)、出生に至った群でも同様でした(2,279.08±781.18 vs. 2,101.90±677.53、P=.001)。CSは全体の47.4%の胚で確認され、CS存在群では非存在群に比べて着床率が有意に高値でした(50.5% vs. 43%、P=.033)。
収縮パターンについて、融解後に何らかの収縮を示した胚は全体の64.1%でした。PRC(再拡張前収縮)は全胚の48.7%に認められました。PRCは融解直後・再拡張開始前に起こる生理的な一時収縮であり、凍結保護物質の排出と細胞内環境の正常化を反映すると解釈されます。PRC存在群の着床率(50.0%)はPRC非存在群(42.1%、P=.024)より有意に高値であり、「一度縮んでから力強く再拡張できる」ことが胚の生命力の高さを示している可能性があります。なお、PRCにおける収縮率の大きさ自体は予後と相関しませんでした。
MRC(再拡張中収縮)は全胚の20.9%に認められました。MRCの回数や有無そのものは予後と相関しませんでしたが、収縮率(shrinkage percentage)が有意差を示しました(着床群:12.27%〔95%CI 9.28–15.26〕vs. 非着床群:17.49%〔95%CI 14.10–20.89〕、P=.027)。この信頼区間の重複しない境界値をもとに、15%を閾値としてMRCをポンピングとコラプスに分類しました。
ポンピング(MRC<15%)は全胚の14.4%に認められました。ポンピングは再拡張の途中で起こる軽微な脈動であり、胞胚腔内の液体をポンプのように動かすことで孵化を助けると考えられています。着床率・出生率(50.0%、42.5%)は非ポンピング群(45.3%、39.9%)と有意差はありませんでしたが、補助孵化未施行胚(n=706)において自然孵化率がポンピングあり群(18.8%)でなし群(8.7%、P=.003)より有意に高く、孵化促進効果が示されました。
コラプス(MRC>15%)は全胚の8.4%に認められ、着床率を47.3%から31.8%(P=.016)、出生率を41.5%から27.3%(P=.024)へと有意に低下させました。コラプスは再拡張の途中でTEが大きくしぼんでしまう現象であり、TE細胞間の密着結合の再形成が不完全であることを反映していると考えられます。コラプス群では融解後培養時間も有意に長く(4.37±3.05 vs. 3.61±2.54時間、P=.017)、回復に時間を要する傾向を示しました。また補助孵化未施行胚での自然孵化率もコラプス群(2.9%)では非コラプス群(8.8%)より低い傾向がありました(有意差なし)。
PGT-A実施胚(全例補助孵化済み・正倍数性確認済み)では、いずれの融解後パラメータも臨床予後と有意な関連を示しませんでした(n=140)。PGT-A胚ではポンピングの頻度が高く(26.4% vs. 12.1%、P<.001)、PRC頻度は低値(17.1% vs. 55.0%、P<.001)で、これは補助孵化によりZPが既に開放されているため、凍結時にTE細胞が凍結保護物質に直接曝露されより完全に収縮するためと考えられています。
多変量ロジスティック回帰分析(Table 2)では、着床の独立予測因子として再拡張速度(OR 1.21–1.24)、ICM面積(OR 1.30)、CS存在(OR 1.41–1.50)、コラプス(OR 1.94、95%CI 1.07–3.54)、周期タイプ(自然周期)が同定されました。出生の予測因子としては再拡張速度、ICM面積、CS存在、最終融解後AIスコア、再拡張サイズが挙げられました。モデルのAUC-ROCは着床で0.647、出生で0.663でした。また本研究の結果から、融解後最適培養時間はおよそ3時間であり、3.5時間を超えると出生率の低下とコラプスの増加が観察されることが示唆されました。
私見
先行研究との対比として以下が挙げられます。
- コラプスと予後(否定・肯定双方):
Marcos J, et al. Hum Reprod. 2015は、コラプスが着床率低下と強く関連することを示しており、本研究の結果を支持しています。一方でBodri D, et al. Fertil Steril. 2016は、コラプスが独立した予測因子ではないとしており、定義や方法論の相違が結果の乖離をもたらしている可能性があります。本論文はshrinkageの閾値を15%と数値化して定義した点で方法論的な明確さを持ちます。 - コラプスと異数性:Cimadomo D, et al. Hum Reprod. 2022は、コラプスが形態不良・異数性・変性と関連することを示しており、本研究でコラプス群のAIスコアおよびASEBIR評価が低下していたことと整合します。
- CSの意義:Joo K, et al. Front Cell Dev Biol. 2023およびMa BX, et al. Front Med (Lausanne). 2022は、CSが臨床妊娠・出生の正の予測因子であることを示しており、本研究の結果と一致しています。
- 再拡張速度:Shu Y, et al. Fertil Steril. 2009、Desai N, et al. Fertil Steril. 2016など複数の研究が再拡張速度の速さと良好予後の関連を支持しており、本研究はこれらを再確認しています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。