はじめに
近年、米国では新鮮胚移植から凍結融解胚移植へと移行する傾向が顕著であり、SARTのデータでは2016年時点で非ドナー卵子由来の新鮮胚と凍結胚の移植件数がほぼ同数となっています。ホルモン調整周期下胚移植は移植日のスケジュール調整が容易である一方、排卵周期下胚移植はエストラジオールやプロゲステロン投与が不要であることに加え、母児の周産期予後における利点も報告されています。しかし排卵周期下胚移植における最適な移植タイミングについては未だコンセンサスが得られていません。特に自然発生LHサージの有無に基づくタイミング調整の有用性については、過去の報告でも結論が分かれており、正倍数性胚盤胞を用いた検討は限られていました。
ポイント
正倍数性胚盤胞を用いた修正自然周期凍結融解胚移植では、LHサージの有無によるタイミング調整(LH/hCG+6 vs hCG+7)で妊娠予後に有意差は認められませんでした。
引用文献
J. K. Johal, et al. J Assist Reprod Genet. 2021 Jan;38(1):219-225. doi: 10.1007/s10815-020-01994-1.
論文内容
自然発生LHサージを認めた症例において、修正自然周期凍結融解胚移植(mNC-FET)のタイミングを1日早めることが妊娠予後に影響するかを評価することを目的とした、単一学術施設における後方視的コホート研究です。2016年5月1日から2019年3月30日までに自家凍結正倍数性胚盤胞を用いてmNC-FETを施行した全症例を対象としました。標準プロトコルとして超音波モニタリングを行い、優位卵胞および子宮内膜が適切に発育した時点で血清LH、エストラジオール、プロゲステロンを測定し、hCGトリガーを投与しました。LH≥20 mIU/mLの場合はその日にトリガーを投与し、サージ後6日目にFETを実施(LH/hCG+6群、排卵後5日目の胚移植を意図)、LH<20 mIU/mLの場合はトリガー後7日目にFETを実施(hCG+7群)しました。主要評価項目は臨床妊娠率および出生率とし、同一患者の複数周期間の相関を調整するため、一般化推定方程式(GEE)法を用いた多変量ロジスティック回帰解析を行いました。
結果
包含基準を満たした453周期のmNC-FETのうち、205周期がLH/hCG+6群、248周期がhCG+7群でした。全体のhCG陽性率は72.4%、子宮内妊娠率は65.8%で、両群間で同様の結果でした。全体の臨床妊娠率は64%、臨床流産率は4.8%であり、両群間で同様でした。全体の出生率は60.9%(LH/hCG+6群61.0%、hCG+7群60.9%)でした。生化学的流産率は7.9%、未確定部位妊娠/異所性妊娠率は1.2%でした。年齢、BMI、移植時の出産歴、喫煙状況を調整したGEE多変量ロジスティック回帰解析では、LH/hCG+6群はhCG+7群と比較して臨床妊娠のオッズ(aOR 0.97、95%CI 0.65-1.45、p=0.88)および出生のオッズ(aOR 0.98、95%CI 0.67-1.45、p=0.93)が同様でした。子宮内膜厚も両群で同等(9.3 mm vs 9.0 mm)であり、エストラジオールはLHサージ群でやや高値、LHおよびプロゲステロンは予想通りLHサージ群で高値でした。
| LH/hCG + 6 | hCG+ 7 | |
| 子宮内膜厚(mm) | 9.3 (1.5) | 9.0 (1.4) |
| LH値 (mIU/ mL) | 46.5 (25.1) | 10.8 (5.1) |
| ピークE2値 | 274.8 (94.2) | 244.4 (96.9) |
| P4値 | 0.7 (0.3) | 0.3 (0.2) |
私見
健常なエストロゲン産生卵胞と内膜が確認できれば、LHサージの有無にかかわらず、トリガー後7日目もしくはLHサージ後6日目のいずれのタイミングでも同等の信頼性で胚移植を施行できることを示唆しています。LHサージに基づくタイミング調整の意義については過去の報告でも結論が分かれており、Fatemi HM, et al. Fertil Steril. 2010では3日目胚を用いた124例のRCTで自然発生LHサージが高い妊娠率と関連すると報告されましたが、移植タイミング自体は調整されていませんでした。Groenewoud ER, et al. Reprod Biomed Online. 2012では4日目胚を用いた233例の前方視的非無作為化試験でLHサージは妊娠率に影響しないと報告されています。Irani M, et al. J Ovarian Res. 2017では非生検胚ではLHサージありで妊娠率が高い一方、284周期の正倍数性胚盤胞では LHサージの有無に関わらず妊娠率は同様でした。Bartels CB, et al. Reprod Biomed Online. 2019では LH≥20 mIU/mLに到達した日から6日後の移植では翌日のLH動態にかかわらず妊娠率に差がないと報告されており、本研究の結果と整合します。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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