はじめに
PCOSは生殖年齢女性の8〜13%に認められる頻度の高い内分泌疾患で、排卵障害は中心的な臨床像です。クロミフェンクエン酸塩(CC)の投与にもかかわらず、CC 100〜150 mg/日を3周期以上行っても排卵に至らない「CC難治性」が15〜40%に存在します。レトロゾール療法、ゴナドトロピン療法または腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)が選ばれますが、LODは入院や全身麻酔が必要で、卵管周囲癒着や早発卵巣不全(POI)といった合併症リスクも指摘されています。これに対し、外来で施行可能な超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術(UTND)が新たな術式として注目されています。今回、CC難治性PCOSを対象としたUTNDの有効性と安全性を評価したCochraneシステマティックレビューをご紹介いたします。
ポイント
CC難治性PCOSに対する超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術はLODと比較して妊娠率に明確な差はないものの、排卵率はわずかに低下する可能性があります(エビデンスの質は低〜非常に低い)。
引用文献
Zhang J, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jul 23;7(7):CD008583. doi: 10.1002/14651858.CD008583.pub2.
論文内容
CC難治性PCOSを有する不妊女性に対する超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術の有効性と安全性を、LODあるいはゴナドトロピン単独療法と比較評価することを目的としたCochraneシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。
材料および方法として、Cochrane Gynaecology and Fertility Group Specialised Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、その他6つのデータベースを2018年11月まで検索し、ESHRE 2018の抄録、参考文献リスト、臨床試験登録もチェックしました。CC難治性PCOSの生殖年齢女性(18〜44歳、不妊期間1年以上)を対象とし、UTND(±排卵誘発薬)対LOD(±排卵誘発薬)、およびUTND+ゴナドトロピン対ゴナドトロピン単独を比較したRCTを採用しました。CCとゴナドトロピン両方に難治性の症例、PCOS以外の不妊原因が90%を超えるあるいは不明な試験は除外しました。Primary outcomeは出生率と手術合併症発生率(出血・感染)、Secondary outcomeは妊娠率、排卵率、OHSS発生率、流産率、多胎妊娠率、早産率、費用としました。二名のレビュアーが独立して試験を選定・バイアスリスクを評価し、ランダム効果モデルでOR(95%CI)を算出、GRADEでエビデンスの質を判定しました。
結果
最終的に5件のRCT(計639名のCC難治性PCOS女性)が組み入れられました。3件がUTND対LODを、2件がUTND+ゴナドトロピン対ゴナドトロピン単独を比較していました。エビデンスの質は低〜非常に低く、主な制約はランダム化・割付・盲検化の報告不十分、異質性、サンプルサイズの限界、出生率や手術合併症など臨床的に重要なアウトカムの未報告でした。 UTND対LODでは、出生率を報告した試験はなく、手術合併症はBadawy 2009の1件のみで両群とも0件でした。妊娠率はOR 0.54(95%CI 0.28–1.03; I²=56%; 3 RCTs, n=473; 非常に質の低いエビデンス)で有意差はつきませんでした。排卵率はOR 0.66(95%CI 0.45–0.97; I²=0%; 3 RCTs, n=473; 質の低いエビデンス)で、UTND群でわずかに低下する可能性が示されました。LODの予想排卵率69.5%に対し、UTND群では50.6〜68.8%と推定されました。流産率はChen 2004の1件のみで、OR 0.57(95%CI 0.05–6.90; n=35)と差は不明でした。OHSS発生率と多胎妊娠率を報告した試験はありませんでした。 サブグループ解析では、ゴナドトロピン非併用下のUTND対LODで妊娠率はOR 0.52(95%CI 0.21–1.31; 2 RCTs, n=413)、ゴナドトロピン併用下ではOR 0.66(95%CI 0.24–1.86; 1 RCT, n=60)でいずれも有意差なしでした。排卵率はゴナドトロピン非併用下でOR 0.66(95%CI 0.44–0.99; 2 RCTs, n=413)と有意にUTND群で低く、併用下ではOR 0.66(95%CI 0.18–2.36; 1 RCT, n=60)で差はつきませんでした。感度分析でランダム化・割付の質が高い試験(Kandil 2018のみ)に限定すると、妊娠率はOR 0.33(95%CI 0.19–0.58; n=250)とUTND群で有意に低くなりました。 UTND+ゴナドトロピン対ゴナドトロピン単独の比較では、出生率と手術合併症の報告はなく、妊娠率はMa 2007でOR 6.90(95%CI 1.78–26.73; n=74)、Qi 2015でOR 1.85(95%CI 0.61–5.61; n=92)、排卵率はQi 2015でOR 3.02(95%CI 0.75–12.20; n=92)、OHSSはMa 2007でOR 0.13(95%CI 0.01–2.64; n=74)でいずれも非常に質の低いエビデンスでした。
私見
今回のCochraneレビューを読み解くうえで重要なのは、超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術が「LODと同等」と結論されたわけではなく「不確実」とされた点です。妊娠率には統計的有意差がつかないものの、排卵率は超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術群で約10ポイント低下する可能性があり、感度分析でバイアスリスクの低いKandil 2018のみに限定すると妊娠率も超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術群で有意に低くなりました(OR 0.33、95%CI 0.19–0.58)。これは元ブログで紹介した結論を補強する所見です。
超音波ガイド下経腟卵巣穿刺術の作用機序はLODや楔状切除と同様、卵巣間質・卵胞液中の高アンドロゲン環境を穿刺・吸引によって直接低下させ、視床下部-下垂体系へのフィードバックを是正することにより、FSH分泌増加と卵胞発育・排卵を促すと考えられています(Hendriks ML, et al. Hum Reprod Update. 2007)。LODと異なり熱損傷を伴わないため、理論的には卵巣予備能温存と癒着リスク低減の利点が期待できます。実際Kandil 2018では術後AMH・AFCの低下はUTND群で軽度であったと報告されています。ただし本レビューでは長期予後の追跡が6か月以内に限定されており、卵巣予備能への中長期的影響は依然として不明です。
| 報告者 | 超音波ガイド下卵巣穿刺術 | 腹腔鏡下卵巣多孔術 | オッズ比 | 95%CI | ||
| 排卵あり | 全体 | 排卵あり | 全体 | |||
| ゴナドトロピンを使わない状態での排卵の回復 | ||||||
| Badawy 2009 | 40 | 82 | 45 | 81 | 0.76 | 0.41-1.41 |
| Kandil 2018 | 80 | 125 | 94 | 125 | 0.59 | 0.34-1.01 |
| ゴナドトロピンを使用した状態での排卵の回復 | ||||||
| Chen 2004 | 23 | 30 | 25 | 30 | 0.66 | 0.18-2.36 |
| 全体 | 143 | 237 | 164 | 236 | 0.66 | 0.45-0.97 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
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