男性不妊

2025.02.08

奇形精子症のみでも精索静脈瘤手術は有効

研究の紹介

孤立性奇形精子症(精液検査で奇形精子症のみの所見)不妊男性に対して精索静脈瘤手術は適応されるのか?体系的レビューとメタアナリシス
Is varicocelectomy indicated in infertile men with isolated teratozoospermia? a systematic review and meta-analysis

Dursun M, et al. Is varicocoelectomy indicated in infertile men with isolated teratozoospermia? a systematic review and meta-analysis. Andrology. 2024 Nov;12(8):1642-1650. doi: 10.1111/andr.13602. PMID: 38345602.

はじめに

精索静脈瘤手術の一般的な適応の条件の一つに精液検査のパラメータの異常があります。多くの研究で、精索静脈瘤手術後に精子数と運動率が有意に増加することが示されており、正常な精子形態率の改善も見られることがあります。
触知可能な精索静脈瘤と孤立性奇形精子症(精液検査で奇形精子症のみの所見で乏精子症でもなく精子無力症でもない場合)が併存するケースはあまり多くありません。そのため、このような場合の精索静脈瘤手術の有効性を検討する研究は限られています。これまでに、精索静脈瘤手術が孤立性奇形精子症の有効な治療法となり得ることの示唆はされており、一部のカップルにおいて生殖補助医療の使用を減少させる可能性があります。しかし、従来の研究は症例数が少なく、確定的な結果はえられていません。
今回の体系的レビューおよびメタアナリシスの目的は、孤立性奇形精子症における精索静脈瘤手術の有効性を評価した研究をまとめて評価し、信頼性の高い結果を得ることです。この研究は、孤立性奇形精子症患者における精索静脈瘤手術の効果を検討した初めての体系的レビューおよびメタアナリシスと思われます。

研究の要約

背景

臨床的に触知可能な精索静脈瘤で、精液検査のパラメータで奇形精子症のみを有する症例は稀です。そのため、精索静脈瘤手術が精子形態に与える影響は明確ではありません。このメタアナリシスでは、奇形精子症のみを認める症例(孤立性奇形精子症)における精索静脈瘤手術の有効性を評価した研究を統合し、より一貫性のある信頼できる結論を得ることを目標としました。

材料と方法

PRISMA(体系的レビューとメタアナリシスのための推奨報告項目)ガイドラインを利用し、2023年10月1日以前に発表された研究を対象としました。使用した検索用語は、”teratozoospermia(奇形精子症)”、”isolated teratozoospermia(孤立性奇形精子症)”、”varicocoelectomy* for isolated teratozoospermia(孤立性奇形精子症に対する精索静脈瘤手術)”、”semen analysis after varicocoelectomy in isolated teratozoospermia(孤立性奇形精子症における精索静脈瘤手術後の精液検査)”です。
(*KEYWORDSには、varicocelectomyと記載されており、”varicocelectomy”での検索と考えられます)

結果

1,013件の完全な論文または要旨を特定しました。このうち、体系的レビューが5件、メタアナリシスが4件ありました。5件の研究は、18~44歳の患者348人を対象としていました。統合解析の結果、精索静脈瘤手術を受けた孤立性奇形精子症の患者において、精子形態が有意に改善することが明らかになりました(p<0.0001)。一方で、精子濃度に関しては、有意な改善は認められませんでした(p=0.058)。調査対象の3つの研究では妊娠率に関する情報が提供されており、いずれの研究においても高い妊娠率が報告されました。BeggおよびMazumdarの順位相関検定により出版バイアスが確認されました(p=0.04)。

考察

精索静脈瘤手術は、孤立性形態異常と臨床的に触知可能な精索静脈瘤を有する患者にとって、有効で信頼できる治療選択肢となり得ます。

筆者の意見

精索静脈瘤手術は、孤立性形態異常と臨床的に触知可能な精索静脈瘤を有する患者にとって、有効で信頼できる治療選択肢となり得ます。近年では、精子DNA断片化の異常、精液の酸化ストレスの異常がある場合や、精液検査所見が正常の場合でも精索静脈瘤手術の効果を認めるような知見が出てきています。このメタアナリシスでは、孤立性奇形精子症を有する不妊男性において、精索静脈瘤手術が精液所見を改善すること、特に精子正常形態率を向上することで妊娠率を向上させる可能性が示されましたが、この結論にはさらなる検証が必要です。より確定的なデータを得るためには、より高いレベルのランダム化比較試験およびそれらのメタアナリシスが必要です。
当施設では、精子正常形態率の検査はオプションとなっていて、検査を実施した症例は多くありません。このパラメーターを評価している施設や、精子正常形態率が異常であることがわかっている患者さんにとっては有益な情報になる論文と考えます。
この論文では、精索静脈瘤手術を” varicocoelectomy “と表記しているのですが、あまり一般的ではないと思われます。試しに、一般的に使用されていて、日本泌尿器科学会の用語集に掲載されている”varicocelectomy”を用いて、”varicocelectomy for isolated teratozoospermia”をPubMedで検索したところ、この論文で引用されていた論文が出てきましたので、問題はなさそうです。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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