治療予後・その他

2026.07.08

Hirschsprung病女性における妊孕性低下_スウェーデン全国コホート研究(BJS Open. 2023)

はじめに

Hirschsprung病は、遠位腸管に神経節細胞が欠如することで腸管運動が低下し閉塞をきたす先天性腸疾患です。治療は無神経節腸管の切除と正常支配を有する近位腸管の肛門吻合であり、手術操作は女性では卵管・卵巣に、男性では精嚢・精管に近接します。さらに下腹神経叢への影響も懸念されており、潰瘍性大腸炎に対する回腸嚢肛門吻合術後では女性で妊孕性低下が報告されています。一方、Hirschsprung患者の妊孕性を一般集団と比較した大規模研究はこれまで存在しませんでした。今回、スウェーデンの全国登録データを用いてHSCR患者の妊孕性を評価したコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

Hirschsprung女性患者は対照群と比較し挙児を有する割合が低く、初産年齢が高く、子どもの数も少ない結果であり、妊孕性低下が示唆されました。男性では有意差を認めませんでした。

引用文献

Byström C, et al. BJS Open. 2023 May 5;7(3):zrad043. doi: 10.1093/bjsopen/zrad043.

論文内容

Hirschsprung治療を受けた患者における妊孕性を評価することを目的とした、スウェーデンの全国規模・人口ベースのコホート研究です。1964年から2004年の間にSwedish National Patient Registerに登録された全HSCR患者を対象とし、Statistics Swedenにより患者1名に対して年齢・性別をマッチさせた対照5名を無作為に選択しました。アウトカムデータはMulti-Generation RegisterおよびSwedish National Patient Registerから取得しました。曝露はHirschsprung診断、主要アウトカムは挙児の有無(1人以上の子をもつこと)を代理指標とした妊孕性としました。副次アウトカムは初産年齢および子どもの数としました。染色体異常を有する個人および13歳未満で死亡した個人は除外しました。統計解析にはMann–Whitney U検定、χ²検定、Fisher正確検定、t検定、マッチドCox回帰分析を用い、P<0.050を統計学的有意としました。

結果

最終的にHirschsprung患者597名(うち女性143名、24.0%)、対照2969名(うち女性714名、24.0%)が対象となりました。追跡時の平均(SD)年齢はHirschsprung患者で29.6(10.0)歳、対照群で29.8(10.1)歳でした。Hirschsprung患者群では191名(32.0%)が1人以上の子をもち、対照群では1072名(36.1%)であり、全体では有意差を認めませんでした(P=0.061)。男女別解析では、Hirschsprung女性患者で挙児を有する割合が対照女性群より有意に低く(29.4% vs 38.7%、P=0.037)、初産年齢も有意に高く(28.1歳 vs 26.4歳、P=0.033)、Hirschsprung性患者では45.2%(19名)が1児のみであったのに対し、女性対照群では28.6%(79名)でした(P=0.047)。男性群ではこれらの指標に有意差を認めませんでした。教育レベルおよびHirschsprung以外の奇形で調整したマッチドCox回帰分析でも、Hirschsprung女性の挙児を有する可能性の低下は有意のままでした(HR 0.73、CI 0.55–0.97)。男性Hirschsprung患者では調整後解析でも有意差は認めませんでした(HR 1.06、CI 0.87–1.29)。不妊症診断の有病率は両群で有意差を認めませんでした(2.7% vs 2.1%、P=0.358)。一方、便失禁および尿失禁の有病率はHirschsprung患者で対照群より有意に高く、便失禁は女性患者で10.5% vs 0.7%、男性患者で13.0% vs 1.4%(いずれもP<0.001)、尿失禁は男性患者で4.8% vs 1.5%(P<0.001)、女性患者では9.8% vs 6.6%(P=0.210)でした。Hirschsprung以外の奇形(27.3% vs 7.8%、P<0.001)および追跡期間中の死亡(2.3% vs 0.8%、P=0.004)もHirschsprung患者群で有意に高い結果でした。

私見

骨盤内手術後の妊孕性低下については、潰瘍性大腸炎に対する回腸嚢肛門吻合術後の女性で妊孕性低下が報告されており(Waljee A, et al. Gut. 2006)、術後癒着や卵管瘢痕化が主な機序とされています。男性では同術式後も妊孕性は保たれるとされ(Pachler FR, et al. Dis Colon Rectum. 2017)、Hirschsprung手術後と同様のパターンを示しています。Hirschsprung女性ではlong-segment型や全結腸型無神経節症の頻度が高く症状も重度となりやすく(Amiel J, et al. J Med Genet. 2001)、女性のみで妊孕性低下が顕在化した一因と考えられます。
加えて心理社会的要因も関与します。便失禁はHirschsprung患者で高頻度であり、性生活への悪影響が想定されますが、男性では社会的期待や対処の違いから影響が表れにくいと指摘されています(Thomas GP, et al. Int J Colorectal Dis. 2019)。手術瘢痕やストーマによる性的自信の低下、特に女性での性機能不全の高頻度も挙児に影響する要因です(Davidson JR, et al. Br J Surg. 2021)。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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