研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
精索静脈瘤に対する治療の有無による生殖補助医療(ART)の成績:系統的レビューおよびメタアナリシス
英語タイトル
Outcome of assisted reproductive technology in men with treated and untreated varicocele: systematic review and meta-analysis.
PubMedよりCitation
Esteves SC, 他. Asian J Androl. 2016 Mar-Apr;18(2):254-8. PMID: 26510504.
はじめに
精索静脈瘤は男性不妊の最も一般的な原因ですが、ICSIをはじめとする生殖補助医療(ART)を行う際に、事前に手術を行うべきかどうかについては、専門家の間でも議論が分かれてきました。今回ご紹介するメタアナリシスは、ICSIが必要な症例であっても、あらかじめ精索静脈瘤を治療しておくことが妊娠転帰の改善につながるのかを検証したものです。
研究のポイント
- 臨床的精索静脈瘤を有する非無精子症の男性において、精索静脈瘤手術後に顕微授精(ICSI)を行ったグループは、未治療のままICSIを行ったグループと比較して、臨床妊娠率が有意に向上しました(オッズ比 1.59)。
- 生児獲得率(胚移植あたりの出産率)についても、手術施行群で有意な向上が認められました(オッズ比 2.17)。
- 術後の精液所見の改善に加えて、精子DNA断片化(SDF)や酸化ストレスの軽減が、最終的な生児獲得に寄与している可能性が考えられます。
研究の要旨
背景
精索静脈瘤は、不妊検査を受ける男性の約35%〜40%に認められます。臨床的精索静脈瘤に対する手術が、精液所見の改善、精漿中の酸化ストレスや精子DNA断片化(SDF)の減少、さらには自然妊娠率の向上をもたらすことについては、十分なエビデンスがあります。しかし、ARTの前に精索静脈瘤手術を行うことで治療成績が向上するかどうかは、明らかになっていませんでした。
目的
この研究の目的は、臨床的な精索静脈瘤を有する非無精子症の不妊男性において、精索静脈瘤手術がART(顕微授精など)の妊娠転帰に与える役割を評価することです。
方法
2015年4月までのMEDLINEおよびEMBASEデータベースを使用し、検索を実施しました。その結果、選定基準に合致した4件の後ろ向き研究が抽出されました。特筆すべき点として、これらはすべて顕微授精(ICSI)に関する研究であり、通常の体外受精(IVF)に関する研究は見当たりませんでした。解析対象は計870サイクル(術後にICSIを施行した438サイクル、未治療でICSIを施行した432サイクル)となりました。
結果
未治療群と比較して、術後ICSI施行群では、臨床妊娠率(オッズ比 1.59、95%信頼区間: 1.19–2.12)および生児獲得率(胚移植あたりの出産率、オッズ比 2.17、95%信頼区間: 1.55–3.06)において有意な向上が認められました。
結論
我々の解析結果は、ICSIを施行する前に臨床的精索静脈瘤に対する手術を行うことが、妊娠転帰の改善と関連していることを示しています。
| 論文著者 発表年 | 術後/未治療の区分 | 症例数 (サイクル数) | 臨床 妊娠率 (%) | 出生率 (%) | 流産率 (%) | 受精率 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Esteves et al. (2010) | 精索静脈瘤手術後 | 80 | 60.0 | 46.3 | 22.9 | 78.0 |
| 未治療 | 162 | 45.1 | 31.5 | 30.1 | 66.0 | |
| Gokce et al. (2013) | 精索静脈瘤手術後 | 168 | 62.5 | 47.6 | 14.9 | 記載無 |
| 未治療 | 138 | 47.1 | 29.0 | 18.1 | 記載無 | |
| Shiraishi et al. (2012) | 精索静脈瘤手術後 | 21 | 61.9 | 52.3 | 記載無 | 70.3 |
| 未治療 | 53 | 28.3* | 24.5 | 記載無 | 68.6 | |
| Pasqualotto et al. (2012) | 精索静脈瘤手術後 | 169 | 30.9 | 記載無 | 23.9 | 64.9 |
| 未治療 | 79 | 31.1 | 記載無 | 21.7 | 73.2 |
*臨床妊娠データは35サイクル分.
私見
男性不妊外来において、精索静脈瘤手術の役割は、単に精子の「数」を増やすことだけではありません。今回ご紹介した研究で注目すべきは、臨床妊娠率だけでなく生児獲得率まで有意に高かったという点です。手術が、受精のその先――胚の発育や妊娠の維持――にも影響している可能性がうかがえます。
ICSIは個々の精子を卵子に直接注入するため、一見すると精液所見の善し悪しは関係ないように思えるかもしれません。しかし、精索静脈瘤に伴う酸化ストレスは、精子DNA断片化(SDF)を引き起こします。損傷したDNAを持つ精子で受精させた場合、受精の時点では問題なく見えても、その後の胚盤胞到達率の低下や、受精後の遺伝子発現の異常(いわゆるlate paternal effect)を介した流産につながることがあります。
ここで重要になるのが卵子側の要因です。若い女性の卵子には、精子のDNA損傷をある程度修復する能力が備わっています。しかし卵子の質が低下している場合には修復が追いつかず、精子のダメージがそのまま妊娠の失敗に直結しかねません。したがって、卵子のコンディションが読みにくい状況であるほど、あらかじめ精子の質を整えておく意義は大きくなります。
スケジュールの面では、本解析の対象研究において手術からARTまでに平均6.2〜7.2か月の待機期間が置かれていた点も参考になります。これは造精機能のサイクル(約74日)を2回以上カバーし、さらに手術後の精巣内および精巣上体の環境が安定するまでの期間に相当します。
精索静脈瘤手術はICSIの「代わり」ではなく、ICSIの成功率を最大化するための「基盤整備」と捉えるべきでしょう。「急がば回れ」の精神で、まずは精子のコンディションを整えることが、結果的に生児獲得への近道になり得ると考えています。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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