研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
精索静脈瘤はなぜ再発するのか ― 見落とされた静脈解剖と再治療(サルベージ)の最新戦略
英語タイトル
Why Varicoceles Recur: Missed Venous Anatomy and Contemporary Strategies for Salvage
Kaltsas A, 他. Why Varicoceles Recur: Missed Venous Anatomy and Contemporary Strategies for Salvage. J Clin Med. 2026;15(4):1524. doi: 10.3390/jcm15041524.
はじめに
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈の血液が逆流し、陰嚢内の静脈がこぶ状に拡張する病気で、男性不妊の代表的な原因の一つです。
手術で逆流を止めると精液所見や妊娠率の改善が期待できますが、なかには治療後も逆流が残る、あるいは再び現れる「遺残・再発」がみられることがあります。
今回は、なぜ再発が起こるのか、そしてどのように対応すべきかを整理した2026年の総説(レビュー論文)をご紹介します。
研究のポイント
- 手術後の再発・遺残の主な原因は、内精静脈の枝分かれ(重複)や、精巣挙筋静脈・外精静脈・精管静脈などの側副静脈を通じた逆流の残存であり、これらを見落とさないことが重要です。
- 再発率は術式によって差があり、顕微鏡下鼠径下(低位)結紮術で最も低く(約0.6〜2.5%)、非顕微鏡的な手術やその他の方法ではより高くなる傾向があります。
- 臨床的に意味のある再発に対しては、顕微鏡下の再手術や血管内塞栓術による再治療が有効で、精液所見の改善・妊娠・痛みの軽減が期待できます。
研究の要旨
背景・目的
精索静脈瘤の手術は、適切に選択された男性において精液所見や妊娠率を改善しうるものの、逆流の遺残や再発は、不妊や陰嚢部痛が持続する治療失敗の一般的な原因であり続けています。その機序や定義が研究ごとに異なるため、患者さんへの説明や再治療法の選択が難しい場合があります。本レビューは、精索静脈瘤がなぜ再発するのかに関する最新の知見を統合し、評価と再治療に対して解剖学に基づいたアプローチを提示するものです。
方法
PubMed/MEDLINE を用いてナラティブなエビデンスの統合を行い、治療失敗の機序・診断的検索・救済的な顕微鏡下手術および血管内治療の成績を扱った、診療ガイドライン、システマティックレビュー、メタアナリシス、ならびに成人・思春期の最新の臨床報告を優先的に採用しました。
結果
再発率は術式や観察期間によって異なり、最新の顕微鏡下低位結紮手術の報告で最も低い値が示されています。治療失敗の主要な要因は、静脈制御の不完全さと複雑な逆流経路であり、内精静脈の重複や、精巣挙筋静脈・外精静脈・精巣導帯静脈・精管静脈といった見落とされた側副静脈が含まれます。診察が依然として中心的な役割を担いますが、痛みが持続する場合や、精液所見・精巣の発育が改善しない場合には、カラードプラ超音波検査が特に有用です。静脈造影は、複雑な症例や複数回治療された症例において原因となる静脈を同定し、標的を絞った塞栓術を可能にします。再治療は高い解剖学的成功率を示し、報告されている範囲では精液所見の一貫した改善と意義のある妊娠率が得られますが、合併症の特徴は治療法によって異なります。
結論
再発した精索静脈瘤は、静脈の解剖と初回治療の内容を救済的治療法の選択に結びつける、構造化された再評価に基づいて管理されるべきです。非顕微鏡的手術の後には顕微鏡下の再手術が一般的に選択され、一方で手術歴がある場合や静脈造影によるマッピングが必要な場合には血管内塞栓術がしばしば選好されます。
表:術式別にみた精索静脈瘤の再発率(本論文 Table 1 より)
| 初回治療法 | 報告された再発率 | 補足 |
|---|---|---|
| 顕微鏡下低位結紮術 | 約 0.6〜2.5% | 最も低い。高倍率下でほぼすべての静脈を確認・結紮できる。大規模報告では約1%以下。 |
| 開放鼠径結紮術 (Ivanissevich 法) | 約 5〜15% | 拡大なし(肉眼)では高め。ルーペなど光学的拡大の使用で低下する。 |
| 開放後腹膜結紮術 (Palomo 法) | 約 9〜16% | 側副静脈(精巣挙筋静脈など)を見落としやすい。動脈も一括結紮すると再発は減るが陰嚢水腫が増える。 |
| 腹腔鏡下手術 | 約 1〜10% | 動脈温存・すべての側副静脈の確実な処理が再発予防の鍵。熟練例では顕微鏡手術に匹敵。 |
| 経皮的塞栓術 | 約 3〜13% | 静脈解剖・塞栓物質・技術的成功に依存。カテーテル挿入困難や再開通で再発しうる。 |
| 順行性陰嚢内硬化療法 | 約 6〜20% | 再発例に用いられることが多い。成功率は80〜94%程度と報告される。 |
出典:Kaltsas A, et al. J Clin Med. 2026;15(4):1524. doi:10.3390/jcm15041524(CC BY 4.0, https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/). Table 1 を翻訳・改変のうえ作成。
私見
精索静脈瘤は男性不妊の原因として最も頻度が高く、かつ手術で改善が期待できる病態の一つです。
しかし今回ご紹介したレビューが示すように、顕微鏡を用いた精緻な手術を行っても、一定の割合で再発・遺残が生じます。
その最大の原因は「見落とされた静脈」です。内精静脈が枝分かれ(重複)していたり、精巣挙筋静脈・外精静脈・精管静脈といった側副路が残っていたりすると、そこを通って逆流が再び生じます。
したがって、術式そのものよりも「逆流に関与するすべての静脈を、動脈とリンパ管を温存しながら確実に処理できるか」が成績を左右します。
ここで大切なのは、側副静脈をすべて予防的に結紮するわけではない、という点です。逆流を認める外精静脈や精巣挙筋静脈は確実に処理しますが、精管静脈は内精静脈・外精静脈を処理した後の主要な流出路(血液の逃げ道)となるため、細い枝は温存するのが原則で、明らかに拡張した太い枝のみを選択的に扱うのが通常の手技と考えています。精巣導帯の静脈についても、精巣を脱転してまで一律に結紮する必要はないと報告されています。
顕微鏡下低位結紮術が基本術式とされるのは、こうした細い静脈まで直視下に確認でき、処理すべき静脈と温存すべき静脈を見分けられる利点があるためです。
一方で、痩せ型の方や大きな左側の静脈瘤では、腎静脈が圧迫される「ナットクラッカー現象」が背景にあり、良好な手術後でも再発しやすいことが知られています。
再発が疑われる場合は、まず立位でのバルサルバ法による診察とカラードプラ超音波で「本当に治療を要する再発か」を見極めることが大切で、無症状のわずかな逆流をむやみに再治療する必要はありません。
再手術が必要な場合には、初回の術式に応じて顕微鏡下の再手術か血管内塞栓術かを選択します(高位結紮の後は顕微鏡下での再手術、手術後の再発では造影下の塞栓術が選ばれやすい傾向があります)。
再治療でも精液所見の改善や妊娠、痛みの軽減が十分に期待でき、実際に多くの報告で有効性が示されています。私の経験上でも、顕微鏡下の手術での再発例に対して、顕微鏡下の低位結紮を再度行うことによって改善が得られることが多いです。
術後に症状や検査値が思うように改善しないときは、あきらめずに男性不妊を専門とする医師にご相談いただくことをお勧めします。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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