体外受精

2024.07.04

アシステッドハッチング効果は眉唾?(Fertil Steril. 2024)

はじめに

体外培養や凍結などの人工的な条件では、透明帯が変化し硬化して、孵化プロセスが変化し着床に影響を与えると考えられており、以前よりアシステッドハッチングが生殖補助医療には導入されています。アシステッドハッチングは物理的切断や薬液による方法が提案されていましたが、レーザーシステムが主流となってきています。
ただ、アシステッドハッチングは慣習的に行われている感もあり効果に疑問視する意見は多々あります。ESHREのgood practice recommendations for add-ons in reproductive medicineでは推奨されておらず、Cochrane reviewでも生児出生率に影響を及ぼさないことをされています。

K. Lundin, et al. Hum Reprod, 38 (2023), pp. 2062-2104
L. Lacey, et al. Cochrane Database Syst Rev, 3 (2021), p. CD001894

5-7日目凍結胚盤胞に対するアシステッドハッチングが生殖予後を改善するかどうかの多施設ランダム化比較試験をご紹介いたします。

ポイント

アシステッドハッチングが生殖予後を改善させる可能性は乏しそうです。ただ、一定条件下では有効である可能性が未だ否定できないサブグループ解析の結果となっています。

引用文献

Alessandra Alteri, et al. Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):106-113. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.010.

論文内容

5-7日目凍結胚盤胞に対するアシステッドハッチングが生殖予後を改善するかどうかを2施設で検討したランダム化比較試験:ALADDIN(pArtiaL zonA pelluciDa removal by assisteD hatchINg of blastocysts)です。
2018年9月から2021年11月に、18~39歳で体外受精周期、単一凍結融解胚盤胞移植を実施する患者をリクルートしました。子宮因子、BMI >35、重度の男性不妊、PGT実施症例は除外しました。アシステッドハッチング群は、1,480nmダイオードレーザーを用い、1~5時の位置から0.2msパルスを連続的に照射し、透明帯の約3分の1を除去しました。主要評価項目は出生率とし、副次評価項目は臨床的妊娠、流産、多胎妊娠、早産、産科合併症、新生児合併症、先天異常としました。

結果

698名が組み入れ基準を満たし、ランダム化(352名アシステッドハッチング群、346名対照群)しました。生児出産したのはそれぞれ105名(29.8%)と101名(29.2%)でした。アシステッドハッチング群における生児出生の相対リスクは1.02(95%CI、0.86-1.19)でした。2施設間、女性年齢、体外受精適応、受精方法、胚盤胞グレード、胚盤胞凍結日でサブグループ解析を行いましたが、明確な有意差をつく結果にはなりませんでした。

私見

体外受精による体外培養・凍結などの手技は透明帯効果を引き起こす可能性があるが、胚が透明帯から脱出するのを邪魔して臨床成績をおとすほどではなさそうである、というのが現在までの結論ではないでしょうか。
サブグループ解析の結果がサプリメントデータにのっています。ここの解釈は面白くて、年齢が高い女性、胚盤胞グレードが高い場合、媒精>顕微授精におけるアシステッドハッチングがfavorableである可能性を秘めた結果となっています。また、施設間差もありそうです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 胚盤胞の凍結

# 胚盤胞の評価

この記事をシェアする

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

day5-8に生検された胚盤胞のeuploidy率と生殖成績:多施設共同研究(J Assist Reprod Genet. 2025)

単一胚盤胞移植後の品胎妊娠―発生頻度と発生機序について(J Assist Reprod Genet. 2025)

反復ガラス化凍結と反復TE生検が胚盤胞移植成績に与える影響(J Assist Reprod Genet. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.02

挙児希望男性の初回精液検査・精子DNA断片化率・精液酸化還元電位の異常頻度(日本受精着床学会雑誌. 2024)

2025.09.02

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

男性不妊と女性不妊におけるART妊娠の周産期予後の違い(Fertil Steril. 2025)

2025.09.08

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

2025.09.09

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

2024.10.15