はじめに
不妊治療をしているかたは、妊娠初期のhCG値をみて一喜一憂することが多いと思います。一度のhCG値が高い低いで全てを判断することが推奨されているわけではありません。アメリカ産婦人科学会のCommittee on Practice Bulletinsをご紹介いたします。
ポイント
妊娠初期hCGは絶対値や上昇率で異常妊娠リスクが推測できるが、例外も多くあることを認識する必要がありそうです。
引用文献
ACOG Practice Bulletin No. 191: Tubal Ectopic Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018. doi: 10.1097/AOG.0000000000002464.
論文内容
1回の血清hCG測定では、妊娠の成立性や場所を診断することはできません。正常妊娠と異常妊娠の鑑別には、hCG値の連続測定が用いられることが一般的です。初回測定の2日後にhCG値測定を行い、増減を評価することが推奨されています。
妊娠初期には、血清hCG濃度は曲線的に上昇し、妊娠10週までに100,000mIU/mLでプラトーに達します。妊娠継続のhCG上昇率は以前に比べて、より緩やかな上昇でも可能性があることが報告されています。
例えば、期待されるhCG上昇率は、
– 初期hCG値が1,500mIU/mL未満では49%
– 初期hCG値が1,500-3,000mIU/mLでは40%
– 初期hCG値が3,000mIU/mL以上では33%
とされていて、基準値以下では異常妊娠(子宮外妊娠または生化学的妊娠や流産)を疑うことができますが、あくまで参考程度にとどめることが求められています。
私見
「hCG上昇率は、初期hCG値が1,500mIU/mL未満では49%、1,500-3,000mIU/mLでは40%、3,000mIU/mL以上では33%」という基準は下記の論文に基づいています。
– Barnhart KT, et al. Obstet Gynecol 2016. doi: 10.1097/AOG.0000000000001568.
例外報告でよく挙げられるのが以下の2つの研究です:
○ Christopher B Morse, et al. Fertil Steril. 2012. doi: 10.1016/j.fertnstert.2011.10.037.
– 子宮外妊娠179名、子宮内妊娠259名、流産567例の多施設コホート。
– 2日間で35%のhCG最小上昇率で:感度83.2%、特異度70.8%、誤分類率:正常妊娠7.7%、子宮外妊娠16.8%
– 3回目の測定追加で誤分類率2.7%まで低下。
○ Karine Chung, et al. Hum Reprod. 2006. doi: 10.1093/humrep/dei389.
– IVF出産391名(単胎224、双胎135、三胎32)の後ろ向き研究。
– 平均上昇率:24時間で50%、48時間で124%。最も緩やかな症例:24時間14%、48時間30%でも生児獲得。
– 多胎妊娠ではhCG絶対値は高値だが、上昇率に影響なし。
– BMIが高いとhCG絶対値が低下する傾向も報告。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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