不育症

2025.02.21

原因不明不育症患者に対する着床前遺伝子検査(PGT-A)の有用性(Fertil Steril. 2025)

はじめに

流産は妊娠の15〜25%に経験する一般的な合併症です。不育症は、国や学会によってやや定義が異なりますが、2回以上の連続または非連続の妊娠喪失(生化学的妊娠や着床部位不明妊娠を含む)と定義されています。不育症の原因は様々ですが、50%以上が原因不明とされています。PGT-Aによる異数性胚の選別が、不育症患者の治療選択肢として注目されています。

ポイント

PGT-A(着床前検査)は、ASRM committee opinion 2024とほぼ同様の見解となっています。
原因不明不育症患者で異数性割合が増えるかどうかは、今回は不明確で結論は出ませんでしたが、今後のデータに注目していきたいと思います。

引用文献

Mumusoglu S, et al. Fertil Steril. 2025. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.326

論文内容

原因不明不育症の管理におけるPGT-Aの有効性を検討することを目的としたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。
PubMedとCochrane Libraryのデータベースを、開始時から2024年6月まで検索しました。PGT-Aの有無にかかわらずARTを実施し、2回以上の原因不明不育症患者を含む研究を対象としました。主要評価項目は生児出生率、副次評価項目は異数性率、臨床的妊娠率、流産率とされました。
原因不明不育症とは、染色体異常、子宮形態異常、内分泌異常(甲状腺機能、糖尿病、PCOS)、免疫学的異常(抗リン脂質抗体症候群を含む)がない症例と定義されています。

結果

18報告が選択されました。PGT-A実施群と非不育症群の比較:8研究、PGT-A実施群とPGT-A非実施群の比較:11研究です(1研究は両方のデータを含む)。
研究デザインは後ろ向き研究が主で、1件が前向き研究、1件がRCTでした。

不育症カップルの胚異数性率が高いかどうかは不明確でした。正常核型胚移植において、原因不明不育症患者と非原因不明不育症患者の流産率(OR 1.10; 95% CI 0.57–2.13)および出生率(OR 1.04; 95% CI 0.74–1.44)は同等でした。流産組織のPOC分析では、原因不明不育症患者と非原因不明不育症患者で異数性率に差はありませんでした。
一方、PGT-Aは流産率を低下させ(OR 0.42; 95% CI 0.27–0.67)、移植あたり(OR 2.17; 95% CI 1.77–2.65)および患者あたり(OR 1.85; 95% CI 1.18–2.91)の出生率を向上させました。

私見

生殖医療者が日常診療で悩む「どの患者さんにPGT-Aを提案すべきか」という問いに対して、以下の患者群が良い適応となるのでしょうか。
高齢患者で複数胚が獲得できる方は、確かに良い適応だと思います。
次に原因不明不育症患者も、正常胚を戻さないとその後のディスカッションが進まない気がするため、PGT-Aを提案するようにしています。
今回の結果は「当たり前」と言われるとそのとおりかもしれませんが、PGT-A(着床前検査)に対するASRM committee opinion 2024と一致した見解であることが再確認されました。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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