はじめに
胚移植は体外受精における最終かつ最も重要なステップです。この過程で、胚はカテーテル内に残留することがあり、これは最も経験豊富な医師でも避けられない事態となっています。胚残留は1%前後とされていて、原因としてカテーテルへの血液・粘液の付着、移植胚数、移植培養液の種類/量、移植手技者などが関連していると考えられています。胚移植カテーテルへの胚残留が妊娠・出産に与える影響は、なかなかビッグデータでは検証されていませんでした。今回ご紹介させていただく報告は、PSMとして大規模データになります。
ポイント
胚移植カテーテルへの胚残留は、凍結融解胚移植において生化学的妊娠、臨床的妊娠、および出生率を低下させる要因となります。
引用文献
Tingting He, et al. Fertil Steril. 2025 Mar;123(3):439-447. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.09.035.
論文内容
凍結融解胚移植周期における胚移植カテーテルへの胚残留が妊娠転帰に与える影響を調査することを目的とした後方視的コホート研究です。2016年1月から2022年12月までに凍結融解胚移植を受けた39,118名の女性を対象としました。
対照群(n=38,933)と胚残留群(n=185)に分けられ、傾向スコアマッチング(PSM)を用いて1:4の割合でマッチングを行いました。主要評価項目は出生率で、副次評価項目は生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、流産率、異所性妊娠率でした。
結果
カテーテル内胚残留の全体発生率は0.47%(185/39,118)でした。PSM後の胚残留群の妊娠転帰はPSM前と同様で、生化学的妊娠(オッズ比[OR] 0.83、95%信頼区間[CI] 0.72–0.95)、臨床的妊娠(OR 0.81、95%CI 0.69–0.96)、出生(OR 0.80、95%CI 0.66–0.97)の可能性が低下しました。また、胚残留群の出生時体重は対照群と比較して高値でした。一方、流産、異所性妊娠、帝王切開分娩、妊娠週数については、PSM前後ともに差は認められませんでした。
私見
過去のブログでも取り上げていますが、胚残留による妊娠転帰は「変わらない」とするものと「低下する」とするものに相反する結果が分かれています:
胚残留は妊娠転帰に影響しないとする報告:
– Kadour-Peero et al. (J Assist Reprod Genet, 2022)
– Vicdan et al. (Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 2007)
– Zhang et al. (BMC Pregnancy Childbirth, 2023)
– Yi et al. (Clin Exp Reprod Med, 2016)
– Lee et al. (Fertil Steril, 2004)
胚残留は妊娠転帰に悪影響を及ぼすとする報告:
– Marikinti et al. (Hum Reprod, 2005)
– Xu et al. (Fertil Steril, 2020)
胚移植で戻ってきた胚を再移植したら成績は落ちる?(論文紹介)
胚残留をして成績があがることはないわけですから、技術的に減らせる胚残留は最小限にすることを心がけることが重要だと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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