体外受精

2025.05.16

high response評価のためのAMH/胞状卵胞数(Fertil Steril. 2025)

はじめに

患者の卵巣反応は「low response」から「high response」までさまざまな分類が用いられてきました。「high response」の定義は文献によって大きく異なります。標準的な卵巣刺激プロトコルに対する意図しない多数の卵胞/卵子発育として定義されたり、高エストラジオール値や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)リスクに基づいて定義されたりします。最近、HERA(Hyperresponse Risk Assessment)デルファイコンセンサスが確立され、過剰反応を15個以上の卵子回収と明確に定義し、統一された基準が提案されました。
今回、high response評価のためのAMH/胞状卵胞数を検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

AMH値4.38ng/mL以上、AFC値16以上はhigh responseを示唆し、年齢層によって閾値は異なります。

引用文献

Hochberg A, et al. Fertil Steril. 2025;123:827–37. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.11.021

論文内容

HERA(Hyperresponse Risk Assessment)デルファイコンセンサスによって定義された卵巣刺激への過剰反応リスクを示す抗ミュラー管ホルモン(AMH)と胞状卵胞数(AFC)の閾値を決定することを目的としました多施設後ろ向きコホート研究です。
POSEIDON基準による正常卵巣予備能マーカー(AMH≧1.2ng/mL、AFC≧5)を持ち、GnRHアンタゴニスト法を用いた従来型卵巣刺激(FSH≧150IU/日)による初回IVF/ICSI周期を受けた女性が対象としました(2015-2017年)。「high response」はHERAの定義に基づき15個以上の卵子回収と定義され、非HERA過剰反応者(POSEIDON基準内の卵巣予備能マーカーで15個未満の卵子回収)と比較しました。主要評価項目はROC曲線を使用した過剰反応リスクを示すAMH/AFCの閾値で、患者の年齢(<35歳と≧35歳)によって層別化されました。多変量ロジスティック回帰分析でHERA過剰反応に関連する因子を探索しました。

結果

4,220人の患者が含まれ、そのうち2,132人(50.5%)が過剰反応者でした。ROC曲線分析により、過剰反応の閾値として以下が明らかになりました:全コホートではAMH≧4.38ng/mL(AUC 0.71)とAFC≧16(AUC 0.80)、35歳未満の女性(N=3,056)ではAMH≧4.95ng/mL(AUC 0.68)とAFC≧18(AUC 0.76)、35歳以上の女性(N=1,164)ではAMH≧4.33ng/mL(AUC 0.77)とAFC≧15(AUC 0.86)でした。高齢女性は若年女性よりも高いゴナドトロピン投与量(1日あたり、total)を受けていました。過剰反応を示した患者群においてその特定の特徴や治療法が使用されていた割合をみていくと、AMH、AFC、女性の年齢、ゴナドトロピン投与量、ゴナドトロピンの種類(rFSH)、トリガー戦略(hCG)、刺激期間、男性因子または原因不明不妊が過剰反応の有意な予測因子でした。

私見

HERA(Hyperresponse Risk Assessment)デルファイコンセンサスは以下の論文で議論されています。
Ido Feferkorn, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 May;40(5):1071-1081. doi: 10.1007/s10815-023-02757-4.


1)15個以上の回収卵子数(第2ラウンド、72.7%合意)
2)過去のhigh responseやOHSS既往は必要ない(第1ラウンド、68%合意)
3)回収卵子数(≥15)を超える場合、OHSSは過剰反応の定義に関連しない(第2ラウンド、77.3%合意)
4)卵巣刺激中の最も重要な因子は、平均直径≥10mmの卵胞数(第1ラウンド、86.4%合意)
5)AMHはリスク評価で考慮(第1ラウンド、96%合意)
6)AFCはリスク評価で考慮(第1ラウンド、95.5%合意)
7)患者年齢はリスク評価で考慮(第2ラウンド、77%合意)
8)卵巣体積はリスク評価で考慮しない(第2ラウンド、73%合意)
9)初回患者での、最も重要なリスク因子はAFCで(第1ラウンド、68%合意)
10)初回患者での、AMHとAFCが不一致の場合、AFCがより信頼できる指標(第1ラウンド、68%合意)
11)過剰反応はどの年齢でも起こる(第2ラウンド、73%合意)
12)リスク最低AMH値は≥2 ng/ml(14.3 pmol/L)(第3ラウンド、73%合意)
13)リスク最低AFC値は≥18である(第3ラウンド、82%合意)
14)AMHとAFCに著しい変化がなければ、high response既往がある患者はリスクが高い(第1ラウンド、77%合意)
15)ロッテルダム基準によるPCOS女性は、同等の卵胞数とゴナドトロピン投与量でも、PCOS以外の女性よりリスクが高い(第2ラウンド、86.4%合意)
16)卵巣刺激中≥14mmの発育卵胞の最低数は≥15卵胞(第1ラウンド、73%合意)
17)卵巣刺激中最低ピークE2レベルは≥3,000 pg/mlである(第3ラウンド、96%合意)


注:18項目中17項目が合意に達し、平均直径≥10mmの発育卵胞数(4で合意しているのは指標であることで、合意できなかったのは具体的な個数:15個と20個で結論がでず)に関しては合意に達しませんでした。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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# GnRHアンタゴニスト

# 胞状卵胞数(AFC)

# 卵巣予備能、AMH

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