研究の紹介
細胞障害性のない薬物および免疫療法薬物治療後の精巣機能
Testicular function after non-cytotoxic and immunotherapy drug treatment.
Handelsman DJ, et al. Andrology. 2023 Oct 27. PMID: 37889046.
はじめに
新規の非細胞障害性を有しない薬物や免疫療法によるがん治療薬、例えば分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬*が男性の精巣機能に及ぼす影響については、体系的な研究がありません。モノクローナル抗体やチロシンキナーゼ阻害薬は、性腺毒性のリスクは”不明”あるいは”エビデンスが乏しい”となっていて定まっていません (日本癌治療学会 『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017年版; 小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂第2版)。
要旨
この研究は、性腺毒性を有する化学療法や放射線療法を受けたことのないがん患者さんを対象に、細胞障害性のない薬物や免疫療法薬の影響を明らかにすることを目的として行われました。
性腺毒性を有する治療薬による治療歴のない男性34人を対象に、精巣外分泌機能および内分泌機能の経時的変化を推定するためのモデルを用いて、縦断的研究(コホート1:非細胞障害性薬物および免疫療法による治療を開始しようとしている男性19人、約1年間)と横断的研究(コホート2:すでに非細胞障害性薬物および免疫療法による治療を受けている男性15人)を行った。コホート1では精液と血液のペア45検体(治療前34検体、治療中9検体)、コホート2では45検体(治療前15検体、治療中30検体)が得られました。非細胞障害性薬物による治療および免疫療法を受けた男性は、中央値で33.5ヵ月の治療を受けていました。
結果としては、精子数は約50%減少し、それに伴って血清FSHが増加し、血清インヒビンBが減少しました。血清テストステロン、LH、および性ホルモン結合グロブリンは、非細胞障害性薬物および免疫療法による影響を受けませんでした。
結論は以下の通りです。本研究の症例数と細胞障害性のない薬物および免疫療法の投与期間という限界がありますが、細胞障害性のない薬物および免疫療法薬は精巣機能(精子産生)やFSH、インヒビンBにゆるやかな影響を及ぼし、テストステロンやLHには最小限の影響しか及ぼしませんでした。
治療薬の内訳
モノクローナル抗体(リツキシマブ、ベリムマブ、ペムブロリズマブ)、チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)、免疫調節薬(ナタリズマブ)、キナーゼ阻害薬(イマチニブ、バンデタニブ、ダサテニブ、 ニロチニブ、エルロチニブ、レバチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ、エンコラフィニブ、ビニメタニブ)、ALKキナーゼ阻害薬(アレクタニブ)、またはBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(アスシミニブ)。
| 変数 | 治療前 | 治療中 | p値 |
|---|---|---|---|
| 症例数 | 17 | 14 | |
| 精液量 (mL) | 3.2 ± 0.2 | 3.6 ± 0.2 | 0.24 |
| 精子濃度(x10^6/mL) | 65 [48–86] | 28 [17–43] | 0.002 |
| 総精子数(x10^6) | 202 [151–264] | 77 [48–117] | 0.002 |
| 精子運動率(%) | 34 ± 3 | 31 ± 4 | 0.67 |
| 精子正常形態率(%) | 6.2 ± 0.6 | 5.1 ± 0.6 | 0.24 |
| 精子DNA断片化率(%) | 11 [8–46] | 11 [9–17] | 0.65 |
| 血清テストステロンa (ng/mL) | 5.0 ± 0.4 | 5.3 ± 0.4 | 0.72 |
| 血清LH (IU/L) | 5.2 ± 0.5 | 5.9 ± 0.6 | 0.41 |
| 血清FSH (IU/L) | 3.5 ± 0.4 | 6.6 ± 0.9 | 0.009 |
| 血清SHBG (nmol/L) | 36.2 ± 4.2 | 37.4 ± 3.7 | 0.83 |
| 血清インヒビンB (pg/mL) | 281 ± 23 | 209 ± 21 | 0.026 |
| 血清AMH (ng/mL) | 10.7 ± 1.1 | 11.6 ± 1.7 | 0.65 |
| 血清DHT (ng/mL) | 0.53 ± 0.04 | 0.52 ± 0.05 | 0.79 |
| 血清 DHEA (ng/mL) | 5.1 ± 0.7 | 3.9 ± 0.6 | 0.19 |
| 血清エストラジオール(pg/mL) | 43 ± 7 | 44 ± 7 | 0.99 |
筆者の意見
かなり長期にわたって治療を行っている症例が含まれています。薬物療法中に精子数は半減しているものの、抗悪性腫瘍薬のように無精子症を引き起こすようなことにはなりにくいようです。
本研究の症例には血液がんが多く含まれており、もともと重症の症例が多いということが、薬物治療そのものよりも精液所見の悪化の原因になっていると考えられます。ただし、リスクとしては依然として”不明”あるいは”エビデンスが乏しい”とされている状況に変わりはありません。今回の研究で検討されたような薬物による治療を行う際には、精子凍結について個々の患者さんとよく相談して行っていく必要があると考えられます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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