男性不妊

2024.01.13

妊娠するまでの期間の長さと夫婦の寿命に関連がある?

研究の紹介

Time to pregnancy and life expectancy: a cohort study of 18 796 pregnant couples  
妊娠までの期間と平均余命:18,796組の妊娠カップルのコホート研究  

Lindahl-Jacobsen R, ほか. Hum Reprod. 2023. PMID: 38115232.  

はじめに

健康状態がわるいと妊娠しにくくなることは男女ともにいえます。いくつかの研究で、男性および女性の不妊と死亡率が関連していることがすでに知られています。女性の場合、不妊症はいくつかの疾患と関連していますが、不妊症よりもむしろその基礎疾患が死亡率を増加させることが研究で示唆されています。  

筆者は泌尿器科医師ですが、男性不妊は併存疾患があるとリスクが高くなること、男性に併存疾患があると母体や児の健康にも影響があること、適切でない生活習慣が精液所見を悪化させることなどをこれまで紹介してきました。また、精液所見がわるいと男性の生存期間が短くなることはよく知られています。  
今回の論文は、妊娠するまでの期間と両親の寿命の関連を見たものです。 

研究の要約

生殖機能の指標のひとつとして、「妊娠するまでの期間(time to pregnancy, TTP)」は、子供の両親の死亡率と関連するか?ということを検討しています。  

この研究は1973年から1987年の間に妊婦健診を受けた妊婦18,796組を対象にした前向きコホート研究です。対象となったデンマークの夫婦は、子供の出生日から死亡まで、または2018年まで追跡されました。追跡期間は最長47年でした。対象は初回の妊娠に限定し、TTPは12ヵ月未満、12ヵ月以上、情報入手不可に分類されました。12ヵ月以上のTTPはさらに12~35ヵ月、36~60ヵ月、60ヵ月以上に分類されました。生存分析を用い、最初に妊娠を試みた年齢、出生年、社会経済的状態、母親の妊娠中の喫煙、母親のBMIで調整しました。

結果:  

TTPが60ヵ月を超える母親と父親は、TTPが12ヵ月未満の両親に比べ、それぞれ3.5年(95%CI:2.6-4.3)、2.7年(95%CI:1.8-3.7)生存期間が短くなっていました。死亡率は、TTP<12ヵ月の両親に比べ、TTP≧12ヵ月の父親(HR:1.21、95%CI:1.09-1.34)および母親(HR:1.29、95%CI:1.12-1.49)で高くなっていました。研究期間中の全死亡のリスクはTTPの長さに応じて増加し、TTPが60ヵ月以上の父親では1.98(95%CI:1.62-2.41)、母親では2.03(95%CI:1.56-2.63)と最も高いリスクでした。TTPは、父親、母親ともにいくつかの異なる死因と関連しており、生殖機能と生存率が関係する理由はいくつもあることが示されました。

研究の限界:

研究対象が妊娠症例のみであり、不妊カップル、自然流産などは除外されています。「妊娠を希望してから妊娠するまで、どれくらいの時間が経過しましたか?」という質問の回答が、避妊をしない性交渉の期間と一致していない可能性があります。

結論:  

結論としては、TTPが長いと、その長さに応じて母親と父親の死亡率が増加していたということになります。  

*妊娠するまでの期間が12ヶ月以上の場合の死亡リスクで有意であった疾患  
男性:口腔および咽頭癌、胃癌、希少癌、血液のがん、循環器疾患、消化器疾患、老化に伴う疾患  
女性:喉頭・気管・気管支・肺の癌、希少癌、消化器疾患

筆者の意見

この研究で示されたのは、妊娠するまでの期間が長いと寿命が短くなるということですが、妊娠するまでに時間がかかる場合は、夫婦ともに健康に問題を抱えている可能性があり、それらの健康上の問題が、生殖機能の低下に関連する研究です。プレコンセプションケアが言われていますが、その重要性が再認識されます。  

死亡リスクとなる悪性疾患や非悪性疾患ですが、死亡リスクは男女で一致はしていないものもありました。父親も母親も妊娠前だけでなく、出産後以降も健康に留意する必要があることを改めて感じました。  

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 年齢素因

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