はじめに
不育症は2回以上の妊娠損失と定義され、生殖年齢女性の約5%に認められる疾患です。その原因として子宮形態異常、内分泌代謝異常、遺伝子異常、血栓性素因、免疫学的因子などが知られていますが、約50%は原因不明とされています。近年、ビタミンD(VD)が免疫系の調節に重要な役割を果たすことが明らかになり、習慣流産との関連が注目されています。今回、Gonçalvesらによる11論文を対象とした文献レビューをご紹介いたします。
ポイント
反復流産女性ではビタミンD不足・欠乏が高頻度に認められ、免疫学的異常との関連性および補充による免疫学的改善効果が示唆されます。
引用文献
Daniela Reis Gonçalves, et al. Am J Reprod Immunol. 2018;80:e13022. doi: 10.1111/aji.13022.
論文内容
反復流産(RPL)女性におけるビタミンDの役割について検討したシステマティックレビューです。2回以上の自然流産を経験した女性を対象とした研究論文を対象とし、MEDLINE、Cochrane Libraryデータベースで1978年1月から2018年1月の期間で検索し、11論文が解析対象となりました。
結果
RPL女性において、ビタミンD不足(VDI)またはビタミンD欠乏(VDD)の高い有病率が報告されました。研究ではRPL女性においてVDI/VDDが高頻度に認められ(47.4%-64.6%)、これが免疫学的調節異常と関連している可能性が示唆されました。VD不足・欠乏のRPL女性では、抗リン脂質抗体(APA)、抗核抗体、抗ssDNA抗体、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の陽性率が高く、B細胞、NK細胞の比率およびNK細胞毒性が増加していました。
in vitro実験では、VD3がNK細胞毒性を抑制し、1型サイトカイン(TNF-α、INF-γ)の分泌を抑制し、2型サイトカイン(IL-10)を増加させることで、妊娠成功に関連する1型から2型への免疫応答の変化を促進することが示されました。
2つのランダム化比較試験では、VD補充により妊娠中のINF-γレベルが有意に低下し、IL-23レベルの減少が認められました。しかし、VD補充と流産発生率の関係については統計学的有意差は認められませんでした。
子宮内膜における検討では、RPL女性と対照群でVDR(ビタミンD受容体)およびCYP27B1発現に差は認められませんでしたが、絨毛膜組織および脱落膜組織では、RPL女性においてVDR発現の低下およびCYP27B1発現の低下が認められました。
私見
今回の論文は、ビタミンDが免疫調節作用を介して不育症に関与する可能性を示した重要な総説です。先行研究では、ビタミンD不足と妊娠合併症(子癇前症、妊娠糖尿病、胎児発育不全、早産)との関連が報告されており(Aghajafari F, et al. BMJ. 2013; Hollis BW, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2011)、妊娠における重要性が確立されています。
不育症におけるビタミンDの役割については、いくつかの作用機序が考えられます。第一に、ビタミンDは制御性T細胞(Treg)を増加させ、Th17細胞を抑制することで、妊娠維持に必要な免疫寛容を促進します(Tamblyn JA, et al. J Endocrinol. 2015)。第二に、NK細胞の細胞毒性を抑制し、母体-胎児間の免疫バランスを調節します(Ota K, et al. Hum Reprod. 2014)。
一方で、ビタミンD補充の臨床効果については、まだ議論の余地があります。Samimi M, et al(Glob J Health Sci. 2016)およびIbrahim ZM, et al(Middle East Fertil Soc J. 2013)の小規模なランダム化比較試験では、明確な流産予防効果は示されていません。より大規模で質の高い前向き研究が必要と考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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