男性不妊

2024.06.01

ビタミンDと男性生殖機能 

研究の紹介

Review Article
The Association between Serum Vitamin D Levels and Male
Fertility: A Systematic Review and Meta-Analysis

血清ビタミンD濃度と男性不妊との関連についての系統的レビューとメタアナリシス 

はじめに

血清ビタミンD濃度と男性不妊症との関係について、さまざまな研究がありますが、その結果についてははっきりとした結論は出ていません。この総説では、これまでに公表されているデータの系統的レビューとメタアナリシスをすることにより、血清ビタミンD濃度と男性不妊症および精液検査所見の関連性について評価しています。 

研究の要旨

この研究では血清ビタミンD濃度と男性不妊症に関連した2022年12月1日までの研究について、Embase、Scopus、PubMed、Web of Science、Cochrane Libraryなどのオンラインデータベースを検索してあつめました。さらに、関連論文を評価するためにGoogle Scholarも検索しています。より包括的なレビューとするために、未発表の論文や質の高い論文の参考文献も評価し、さらに適格と思われる研究論文を追加しました。最終的に合計7,345症例を含む24の論文が系統的レビューとメタアナリシスの対象として選ばれました。 

結果

解析の結果、生殖機能のある男性の血清ビタミンD濃度は、不妊症男性の血清ビタミンD濃度と比較して有意に高値をしめしました(加重平均*差(WMD)=7.06, 95%信頼区間(95%CI)=2.51-11.62, P= 0.002)。また、ビタミンD欠乏(<20 ng/mLまたは50 nmol/L)があると、精子濃度(WMD=8. 54、95%CI=4.01-13.06、P<0:001)、総精子数(WMD=14.43、95%CI=1.30-27.55、P = 0.031)、精子運動率(WMD=6.40、95%CI=3.15-9. 64、P<0.001)、精子前進運動率(WMD=5.00、95%CI=1.09-8.92、P< 0.012)、精子正常携帯率(WMD=0.74、95%CI=0.20-1.27、P= 0.007)が有意に低下していました。一方で、ビタミンD濃度は精液量との関連を認めませんでした(WMD=0.17; 95% CI =-0.00-0.34; P= 0.050)。 

結論

血清ビタミンDが男性の生殖機能と有意に関連していることがこの研究から示唆されました。この知見は、男性不妊の方にとって極めて重要な意味を持ちます。 

*加重平均 
加重平均とは、それぞれが異なる重みや値を持つ、一連の数値の平均値です。加重平均を算出するためには、各数値にそれぞれの重みをかけて、その結果を加算します。 

筆者の意見

ビタミンD受容体やその代謝酵素は、前立腺、精嚢、精巣上体、および生殖細胞、特に精原細胞、精母細胞、セルトリ細胞に存在するとされ、精子形成に関係すると考えられます。ビタミンDは精巣でのテストロン産生にも関わっています。女性でもビタミンDの不足は生殖機能に影響しますが、この研究で示されたように男性の生殖機能に有意に関連しることが確認されました。もっと研究が進めば、男性でも血中のビタミンDを測定して、不足していたら補充するということが行われるようになるかもしれません。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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