男性不妊

2024.12.06

Sperm separation devicesの凍結精子への有効性(J Assist Reprod Genet. 2024)

はじめに

ZyMōtを代表する精子分離デバイス(SSD : Sperm separation devices)は、精子の大きさや運動性といった精子の物理化学的特性の違いを利用して、受動的または能動的に最も良好な精子を分離する、精子調製に関する新しいアプローチです。この方法の利点は、より迅速かつ穏やかな精子分離と、生体内での自然な精子選択に似た過程と考えられていること、精子調整の際の高速遠心による潜在的な損傷を回避できることです。
凍結精子でも有効かどうかを検証したsibling oocyte studyをご紹介いたします。

ポイント

精子分離デバイスは凍結精子でも使用可能であり、密度勾配遠心法と成績は同程度である。

引用文献

Eleftherios Gavriil, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Nov 30. doi: 10.1007/s10815-024-03336-x.

論文紹介

ZyMōt™ Multi 850 μl(SSD群)が凍結精液から運動精子を効果的に回収できるかどうかを評価し、受精率、分割率、胚盤胞形成率について、従来の密度勾配遠心法(DGC群)と比較することを目的とした前向き単一施設対照試験です。少なくとも8つのMII卵子が獲得できた150組のカップルがこの研究に参加しました。

結果

受精率および分割率については、SSD群とDGC群で差を認めませんでした。胚盤胞到達率(SSD群:74.03 ± 23.47% vs. DGC群:67.86 ± 23.92%; p = 0.016)、良好胚盤胞到達率(SSD群:66.38 ± 24.94% vs. DGC群:60.98 ± 24.40%; p = 0.035)は、SSD群で良好な結果と認めました。サブグループ解析では、この増加はWHO基準による精液所見正常群(n=118)では有意なままでしたが、WHO基準による精液所見異常群(n=32)では有意差は認められませんでした。

私見

精子分離デバイスが密度勾配遠心法に比べて万能というわけではありません。精子分離デバイスは精子の全量を使用できるわけではないこと、また、症例によって精子分離デバイス処理後の集まりが非常に悪い症例が一定数あることです。今回の凍結精子を用いた報告では150症例中33症例で大幅に処理後の運動精子が減少しました。WHO基準による精液所見別にみてみると、正常群 13/33、低運動率群 11/33、低濃度群 13/33、高形態異常群 17/33となっていました。顕微授精後の受精率や分割率には差がなく、胚盤胞到達率は統計的差がありませんでしたがSSD群のほうが増加しているような傾向がありました。
精子分離デバイスと密度勾配遠心法は受精率・良好胚発生について一定方向の結論に落ち着いていません。精子分離デバイスが密度勾配遠心法に比べて必ず優れていることが立証されているわけではないので、最初から行う必要はなく症例を選んで提案していくことが好ましいと思います。不妊治療は保険診療になったとしても安い治療ではありません。費用対効果を考えて治療選択をしていくことが必要と考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 精子選別

# 胚盤胞

# 胚質評価

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

精液所見は季節で変わる? ― 冬から春に妊活が有利な可能性 (Andrology, 2025)

2026.03.21

妊娠計画中カップルにおける精液所見と妊孕性 (Andrology, 2026)

2026.02.28

5年で総運動精子数が半減? 男性不妊における経時的変化 (Andrology, 2025)

2025.11.01

精子のDNAアクセス性と胚発生、生殖予後(Hum Reprod, 2025)

2025.09.06

挙児希望男性の初回精液検査・精子DNA断片化率・精液酸化還元電位の異常頻度(日本受精着床学会雑誌. 2024)

2025.09.02

男性不妊の人気記事

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

イソトレチノインは男性不妊を改善するのか?―乏精子・精子無力症に対する治療の可能性(Andrology、2017)

2021.08.26

精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:肯定派)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01