研究の紹介
参考文献
カップル間の年齢差と男性パートナーの性の健康および全身的健康
Age disparity in couples and the sexual and general health of the male partner.
Sparano C, 他. Andrology. 2025 May;13(4):782-793. doi: 10.1111/andr.13738. PMID: 39158122; PMCID: PMC12006887.
はじめに
日々の診療の中で、年の差婚と思われるカップルを見かけることがありますが、男性が年上であるケースが多いという印象を持っています。これまでの疫学研究により、男性はしばしば自分より若い女性と性的関係を持つ傾向があり、その年齢差は個人差がありつつも、年齢に応じて変化することが示されています。 しかし一方で、加齢に伴い男性の生殖機能や性機能は徐々に低下していきます。その結果、勃起障害や性腺機能低下症(いわゆる低テストステロン症)が進行することも明らかになっています。
研究のポイント
- 男性は年下の女性と関係を持つ傾向があり、年齢差は高齢男性ほど大きくなります。
- 加齢により男性の生殖機能・性機能は低下し、勃起障害や低テストステロン症が進行します。
- 年齢差カップルにおいても、男性の加齢による影響を考慮する必要があります。
要旨
目的
カレッジ大学病院(イタリアのフィレンツェ)のアンドロロジーユニットを受診した男性性機能障害患者において、パートナー間の年齢差[Δ年齢(男性−女性)]がもたらす影響を分析することを目的として研究が行われました。
対象と方法
単一施設において、4055名の男性症例を対象にインタビューによる評価をしました。横断的解析では心理・生物学的および対人関係に関する関連因子を評価し、縦断的解析では経過観察中の主要心血管イベント(major cardiovascular events, MACE)の発生率を調査しました。すべての統計解析は、年齢、学歴、生活習慣、慢性疾患スコアを調整して実施されました。
結果
Δ年齢(男性−女性)は、男性の年齢層が上がるにつれて段階的に増加する傾向を認めました。Δ年齢が大きいほど子どもの数は多い傾向がありましたが、その一方で家族内の関係はより対立的になる傾向がありました。こうした関係性の特徴として、性的欲求が高く、オーガズムに達しやすいパートナーの存在が報告されています。年下のパートナーを求める男性には、演技性パーソナリティ*傾向(p = 0.023)および高いテストステロン値(p = 0.032)がより多く認められました。しかしながら、年下のパートナーを持つことは、完全な勃起を得る能力にはつながりませんでした。
1402名の患者を対象に平均4.3 ± 2.59年間追跡した縦断的サブグループにおける生存解析(Kaplan–Meier解析)では、Δ年齢が最大の第4四分位群は、最小の第1四分位群と比較して、経過観察中のMACEの発症率が有意に高いことが明らかになりました(p = 0.005)。
考察および結論
性機能障害を有する男性においても(一般集団と同様に)、男性の加齢とともに年齢差のあるカップルの割合は増加する傾向があります。Δ年齢(男性−女性)が大きいことは、特定の男性やカップルの特徴と関連し、主要心血管有害事象(MACE)のリスクが高くなることが示されました。
表 年齢差と子供の人数
年齢差(男性-女性) 四分位範囲 |
||||||||||
1st (差が最小) |
2nd | 3rd | 4th (差が最大) |
|||||||
n | % | n | % | n | % | n | % | P値 | ||
子供の人数 | 0人 | 352 | 32.7 | 187 | 22.4 | 261 | 24.1 | 316 | 31.8 | <0.001 |
1人 | 324 | 30.1 | 251 | 30.1 | 296 | 27.3 | 256 | 25.7 | ||
2人 | 328 | 30.4 | 326 | 39.1 | 427 | 39.4 | 316 | 31.8 | ||
3人 | 56 | 5.2 | 55 | 6.6 | 83 | 7.7 | 84 | 8.4 | ||
4人以上 | 18 | 1.7 | 15 | 1.8 | 17 | 1.6 | 23 | 2.3 | ||
合計 | 1078 | 100 | 834 | 100 | 1084 | 100 | 995 | 100 |
*演技性パーソナリティ:
演技性パーソナリティ障害という疾患があり、感情の不安定さ、ゆがんだ自己イメージ、そして強い注目を求める欲求を特徴とする精神的な疾患とのことです。
筆者の見解
男性が高齢であるほど年齢差は大きくなる傾向があり、高齢男性がより年下の女性と結婚するのは自然な現象と考えられます。実際、本研究では年齢差が大きい男性ほどテストステロン値が高く、子どもの数も多いことが示されており、それだけ精力的であるとも言えるでしょう。
しかし、年齢差が大きいということは、すなわち男性がより高齢であることを意味します。そのため、生殖機能や性機能の低下は避けがたく、さらに心血管イベントのリスク増加も加齢の影響として考えられます。
本研究の対象は、男性機能の問題で医療機関を受診した方々であったため、より特徴的な傾向が示された可能性もあります。
年の差婚のカップルにおいては、男性の健康管理がより重要となると考えられます。今後はそうした方々に対して、演技性パーソナリティ傾向があるということも加味しながら適切なアドバイスを行っていきたいと思います。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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