
はじめに
生殖補助医療において、多くの研究が女性の加齢に焦点を当ててきましたが、男性の加齢が妊娠率に与える影響については議論をし始めたのはここ10年程度です。胚発育の動態観察に基づく胚評価における男性加齢の影響については情報が不足している状況です。今回の研究では、男性加齢が精液所見、胚発育動態、胚評価スコア、妊娠成績に与える影響について包括的に検討しました。
ポイント
男性の加齢は精液所見に悪影響を与えますが、女性の加齢とは異なり、胚発育や移植後の妊娠率に有意な影響を与えませんでした。
引用文献
Taiyo Yamamoto, et al. Reprod Med Biol. 2025 May 21;24(1):e12647. doi: 10.1002/rmb2.12647.
論文内容
男性の加齢が胚発育に与える影響について、精液所見、胚発育動態、胚評価スコア、妊娠成績の観点から包括的に分析することを目的としたレトロスペクティブ研究です。2020年1月から2022年12月に国内生殖医療施設で治療を受けた患者データを用いて、男性および女性の加齢が精液所見、生殖補助医療結果(発育動態、胚評価スコア、胚移植成績など)に与える影響について検討しました。精液分析には4240例、媒精(c-IVF)452例、顕微授精(ICSI)455例、凍結融解胚移植828例のデータを使用しました。
結果
男性の加齢は精液特性に悪影響を与えることが確認されました。精液量は男性の加齢とともに有意に減少し(p<0.05)、総精子数と運動率も年齢とともに低下し、異常精子形態率は有意に増加しました。一方、女性の加齢は体外受精、胚発育動態、胚移植成績に悪影響を与えましたが、男性の加齢はこれらに有意な影響を与えませんでした。女性の加齢はiDAScoreとGardner分類を低下させましたが、男性の加齢はiDAScoreに影響を与えませんでした。凍結融解胚移植における妊娠率および流産率についても、男性の加齢による影響は認められませんでした。
私見
受精率や胚盤胞形成率、胚移植成績は下記のようになっています。基本症例数による揺らぎはあるのかなとは思っていますが、大きな差がつく傾向はなさそうです。
受精率について
媒精データでは女性の年齢による差は認められませんでしたが、35-39歳の女性群において35-44歳の男性群で最も高い受精率(70.6%)を示しました。顕微授精データでは、男女ともに年齢に関連した受精率の低下は認められませんでした。
胚盤胞形成率について
媒精データでは男女ともに年齢に関連した低下は認められませんでしたが、40歳以上の女性群では45歳未満の男性群よりも高い胚盤胞到達率(88.0%)を示しました。顕微授精データでは、女性の加齢は胚盤胞形成率に影響しませんでしたが、男性の加齢では40歳以上の女性群において35-44歳の男性群で最も低い形成率を示しました。
胚発育動態については
男性の加齢は胚発育の速度に影響を与えませんでした。しかし、女性の加齢は胚盤胞到達時間の延長と、35-44歳の男性群における前核消失時間の短縮をもたらしました。女性の加齢はiDAScoreとGardner分類を低下させましたが、男性の加齢はiDAScoreに影響を与えませんでした。凍結融解胚移植における妊娠率および流産率についても、男性の加齢による影響は認められませんでした。 峯レディースクリニックの峯先生、つくば木場公園クリニックの吉岡先生は私が生殖を学び始めた時に定期的に会って情報交換をさせてもらい、刺激をもらいつづけた先輩。不育症を勉強始めたのも峯先生のおかげでした。15年前ですが、つい先日のような気持ちでいます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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