
はじめに
反復着床不全(RIF)は、体外受精を受ける患者の最大10%に発症する無視できない合併症です。RIFの定義については議論が分かれていますが、一般的には少なくとも2~3回の治療周期で4個以上の良質胚を移植しても臨床妊娠に至らない状態とされています。RIFの原因として、胚質、子宮内膜受容能、母体免疫系、子宮形態異常、血栓性素因などが考えられますが、原因不明のRIFも存在します。これまで様々な治療介入が試みられてきましたが、異なる治療選択肢間での有効性比較は十分に検討されていませんでした。
ポイント
IVIG+PBMC、成長ホルモン、ヒアルロン酸付加胚培養液がRIF患者の妊娠転帰を有意に改善し、併用療法が有望な治療戦略となる可能性があります。
引用文献
Yunan He, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Oct;40(10):2343-2356. doi: 10.1007/s10815-023-02923-8.
論文内容
反復着床不全(RIF)患者に対する36種類の異なる治療法の有効性と安全性を調査することを目的としたシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスです。PubMed、Embase、Cochrane Library(CENTRAL)、Web of Science、中国知識基盤(CNKI)を対象に、開始時から2022年8月24日まで英語と中国語で検索を行いました。RIF患者の妊娠転帰に関するデータを提供するランダム化比較試験および観察研究をネットワークメタアナリシスに含めました。妊娠転帰に関するオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)をランダム効果モデルによるNMAで要約しました。
結果
154の臨床研究(74RCTと80非RCT)から計29,906名のRIF患者が含まれました。着床率に関して、全研究を含めた分析では成長ホルモン(GH)(OR: 3.32, 95% CI: 1.95–5.67)が最も効果的な治療法でした。臨床的妊娠率ではIVIG+PBMC(OR: 5.84, 95% CI: 2.44–14.1)が最良の治療法でした。出生率ではヒアルロン酸付加胚培養液(OR: 12.9, 95% CI: 2.37–112.0)が最も効果的で、流産率ではアスピリン併用グルココルチコイド(OR: 0.208, 95% CI: 0.0494–0.777)が最も効果的でした。二次元グラフ解析により、GHは着床率と臨床的妊娠率を同時に最大化でき、ヒアルロン酸付加胚培養液とGHは臨床的妊娠率と出生率を同時に大幅に増加させ、ヒアルロン酸付加胚培養液は臨床的妊娠率を最大化し、流産率を最小化できることが示されました。
私見
RIF治療における包括的な比較検討した報告です。成長ホルモン(GH)とヒアルロン酸付加胚培養液の複数の妊娠転帰に対する一貫した効果です。
ヒアルロン酸付加胚培養液はヒト生殖系細胞外マトリックスに豊富に存在し、胚表面の接着タンパク質HAレセプターCD44との相互作用により胚着床を促進すると考えられていますし、日本の生殖補助医療の保険適用範疇でもあります。
GHはVEGF、ITGB3、IGF-1を上昇させ、子宮内膜下血流と子宮動脈灌流を改善し、子宮内膜受容能を向上させるメカニズムが示唆されていますが、ESHRE RIF good practice recommendation 2023にも含まれていません。
併用療法の可能性については、IVIG+PBMCの組み合わせが臨床妊娠率で最高の成績を示しています。
今回の報告をみて感じたことは、RIFに対するアプローチは①免疫調整含めた全身的アプローチ、②子宮内膜受容能改善を含めた局所的アプローチ、双方の観点から再考する必要がありそうということです。併用療法の報告はまだ少ないため、相乗効果があるのかどうかも興味深い内容と考えています。
個々の患者の原因に応じた個別化医療はなかなかエビデンスに落とし込めないのが難しいところですが、ひとりでも多く目の前の患者様を救えたらなと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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