
はじめに
子宮筋腫の不妊症への影響は部位や大きさにより意見が分かれます。すべての筋腫を同じに取り扱うのではなく、FIGO分類システムを中心に考慮すべきです。こちらに関してまとめた総説をご紹介いたします。
ポイント
筋腫関連不妊症の管理には主に外科的介入が含まれ、筋腫のタイプ、サイズ、位置に応じて個別化されたアプローチが必要です。
引用文献
Jacques Donnez, et al.Fertil Steril. 2024 Jul;122(1):31-39. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.049.
論文内容
子宮筋腫と不妊症の関連、妊孕性を障害する疑わしい機序、筋腫関連不妊症の管理についての総説です。批判的に分析することを目的としています。
2021年Somiglianaらのメタアナリシス・システマティックレビューでは、子宮筋腫の自然妊孕性への影響は不明確で十分に調査されておらず、不妊症と筋腫を有する女性を適切にカウンセリングするためには、よく設計された研究が緊急に必要であると結論付けています。
粘膜下筋腫(FIGO分類0、1、2型)は確実に妊孕性に有害であることが、2つの堅実なメタアナリシスによって示されています。妊娠率、継続妊娠率、生児出生率は子宮筋腫を有する女性では筋腫のない女性と比較して有意に低くなっています。筋層内筋腫(タイプ3、4、5、6、2-5)の不妊症への影響については依然として議論がわかれるところです。
子宮筋腫が妊孕性を障害する機序は、1. 子宮腔の歪み、2. 子宮内膜および筋層の血流障害 (筋腫による血流分布の変化が子宮内膜の血流を減少)、3. 子宮収縮性の増加、4. 分子レベルでの変化 着床に重要なサイトカイン(LIF、IL-10/11)や細胞接着分子(E-カドヘリン)の発現が低下、5. 子宮内膜受容性の障害 筋腫から分泌されるTGF-β3がHOXA-10遺伝子発現を抑制し、子宮内膜受容性を全体的に低下、6. 筋腫被膜の影響 筋腫周囲の偽被膜の肥厚により神経内分泌繊維が増加し、子宮収縮性に影響、と考えられています。
治療アルゴリズムは以下の戦略を提唱しています。
- タイプ0、1、2(<3cm): 子宮鏡的筋腫摘出術
- タイプ2(≥3cm): GnRHアンタゴニスト3ヶ月前処置後の子宮鏡的筋腫摘出術
- タイプ3-4-5(>3cm): 複数の筋層内筋腫±子宮腺筋症の場合
- 患者年齢とAMH値: 卵巣予備能評価により治療緊急性を判断し
状況により生殖補助医療での卵子・受精胚獲得を優先 - GnRHアンタゴニスト治療反応: 3ヶ月間の医学的治療後の筋腫縮小効果を評価
- 治療反応による分岐:
- 良好反応: 自然妊娠トライまたは即座の胚移植を検討
- 中等度反応(筋腫>3-4cm残存): 即座の胚移植を検討
- 不良反応: 外科的治療(筋腫摘出術)
従来の「手術ファースト」から「医学的治療ファースト」へのパラダイムシフトを提案していることです。GnRHアンタゴニストによる「筋腫縮小」と「移動効果」(筋腫を子宮腔から遠ざける効果)により、手術を回避できる可能性を示唆しています。
現在の管理戦略には主に外科的介入が含まれ、子宮鏡下筋腫摘出術、開腹術、腹腔鏡下手術、および子宮動脈塞栓術や放射線学的または超音波ガイド下での集束超音波などの非外科的アプローチが含まれます。
私見
GnRHアンタゴニストの使用により筋腫サイズを縮小させ、子宮腔から遠ざける「移動効果」という概念は面白いですね。FIGO分類に基づく個別化されたアプローチの重要性が強調されており、タイプ3筋腫で2cm以上、タイプ4または5筋腫で3cm以上という具体的な治療介入基準が提示されているのは臨床的に有用です。しかし、著者らも認めているように、高品質なランダム化比較試験の不足が最大の問題であり、エビデンスに基づく治療指針の確立には更なる研究が必要です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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